第573話 暗黒大陸へ行きたいかで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
暗黒大陸ってなんなんですか?
あらためてそんな疑問を抱いた桜と加代さんそしてダイコン。
彼らはこの世界の女神でこそないが、事情に詳しい女神――アネモネちゃんに暗黒大陸についての詳細を問うのだった。
本来はこの世界に対して非干渉の立場であるアネモネちゃんであったが――。
「まぁ、チケットを預けちゃった手前、もう、なにしても変わらないからねぇ。うーん、まぁ、いいか。いいでしょう。このアネモネちゃんが、ちょっくらレクチャーしてあげましょう」
と、意外にさっくり、仕事を引き受けたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「さて、暗黒大陸が魔神シリコーンの支配下にあるという話は聞いたことありますか?」
「のじゃ。それなら確かに、前にギルドで聞いたことがあるのじゃ」
「この世界の神様は基本的に人間に対して非干渉なんだよな。そんな中で、シリコーンだけが人間に干渉しているんだっけか」
「人間を見捨ててへんとも言えるし、未だに子離れできへんとも言える。なんにしても、人間に世界の主導権を譲らん言うんは問題やなぁ」
神々は人間たちにその権能を譲り、どこかへと隠れ去る。
向こうの世界の神話においては基礎的な
その先に神権王授があるかないかはさておいて、神と人類はどこかで線引きをするというのが、正しいかどうかは別として歴史のセオリーである。
実際、それを意図して多くの神々は既に隠れた。
神々は人にこの世界の帰趨を任せる覚悟をしているのだろう。
しかし、それに従わず、未だに影響力を行使しようとするものもいる。
ダイコンの言った通り、人を見捨てていないともいえる。
一方で、子離れできていないともいえる。
自分たちの庇護を与え、そして家畜のように人類を飼いならす。神話の終わりはいつだって、神々に対して人間たちが子離れを成すことにより終結する。
神々の世界への干渉の是非は、結局そういう所に収束するのだ。
「まぁー、そういう訳でね、この世界の神々は既に隠れる段階に入っているのよ。けれども、それを頑なに認めないのがシリコーン。そして、その流れに逆らうために、よくないやり方をしようとしている」
「よくないやり方?」
「のじゃ?」
「神様が人間に一番必要とされる方法ってのはなんだと思う?」
そりゃお前、あれだろう。
満たされないことだろう。
人間ってのは、自分でどうしようもならない時に、神に縋る生き物だ。
東洋人も、西洋人も、そこのところは変わらない。おぉ、神よ、我を救いたまえと天を仰ぐのがあたりまえだ。
待てよ――。
「その話の入り方だと、まさかおまえ、シリコーンの奴がマッチポンプしているように聞こえるんだが」
「聞こえるように言ったのよ。そう、マッチポンプよ」
暗黒大陸は、魔神シリコーンの庇護を受けているように見えて、実質、彼による苛烈な支配下におかれている。
災厄を呼び込み、人々が神を必要とする。
そして、明日に希望を見いだせない。
そんな環境を作り出している。
この異世界とは部外者の女神アネモネは、物憂げな表情でため息を吐きだすと、まぁ、よくある話よねと言葉を結んだ。
よくある話だと。
笑わせてくれる。
「その為に暗黒大陸の人々は疲弊しているっていうのか」
「えぇ、そうよ。暗黒大陸に住む人々は、シリコーンが呼び込んだ災禍とも知らずに、それから助かるために彼を讃える。また、より勇敢な者たちが、彼の庇護を受けられると信じ込み、横暴を働く」
「のじゃぁ!! シビリアンコントロールなのじゃ!!」
「シリコーンだけにってか!! いや、シリコーンのお供、カリビ――ちゃぶっ!!」
真面目な話だというのに変な下ネタを差し込むな。
まったくダイコン。油断も隙もあったもんじゃない。
そしてなるほど暗黒神シリコーン。
なかなかけったいな神様じゃねえか。
「子供離れって話じゃないな、ここまで来ちまうともう本当に災害だな」
「のじゃ。駄女神と甲乙つけ難い邪悪神なのじゃ」
「おいおい加代さん、おいおい。そんなアネモネちゃんは、天真爛漫素敵に可愛いプリチー女神じゃないですか。いやですねぇそんな、人を不幸のどん底に落とすのが生きがいみたいな神様と一緒にしないでください。ぷんぷん」
割と不幸のどん底に突き落とされた感があるんですが、それはいかに。
なんにしても、魔神シリコーンの説明だけで、もうお腹いっぱい。
暗黒大陸がろくでもないところだというのは察して余りあった。
ふむ。
また、えらい所に逃げたな、タナカ。
逆に大丈夫なのか、そんな危険な大陸に逃げたりなんかして。
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