第564話 疑惑の魔法で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 ビキニアーマーの加代ちゃんを想像してフォックスフォックスする桜。

 異世界に来ても同居狐に対する愛情は決して変わらないのであった。


「いや、なんや浮気だめ絶対みたいな話やなかったか?」


 加代ちゃんと桜くんはベストカッポーだからそんなことあらへんのや。

 きっと気のせいやでダイコンの。


「……せやろか?」


◇ ◇ ◇ ◇


 元稲わらの一味だった稲を集めて束にする。

 まるで米俵のようにどっさりと集まったそれを、ピラミッドの如く積み上げて、ふぅとエルフキングは息を吐きだした。


 当然、尻を引き締めてこれみよがしにこちらに見せつけるのも忘れずに。

 相変わらず勘に障るケツをしている男である。

 黙って前を向いていることはできないのだろうか。こち〇の海パン刑事じゃないけれど、自己主張が過ぎるケツしやがって。


 ちくしょう、やはりビキニアーマー女エルフがよかった。

 なんで褌男エルフなんだ。意味がわかんねーよ。

 狂った世界観は散々指摘してきたけれど、ここまで狂ったキャラクターはなかなかないんじゃありません。

 その癖強いし。


 もう、なんていうか、キャパオーバーだよ。

 とんちき異世界転移展開に、俺たちの方がついていけてないよ。

 読者より、キャラクターの方がおいてきぼりだよ。ちくしょう。


「さて、いい具合に稲わらを収穫することができた。遭遇戦だったが上首尾だ。これなら今年はもう、村を上げて刈りにくる必要もないだろう」


 俺に向かってキングエルフが声をかける。


 上首尾ですか。そらよかったですね。

 ただ、嫌味を言うよりも、まずやらなくてはならないことがある。


 必要なんだろという感じに後ろの稲わらを親指で指し示すキングエルフ。

 加代と顔を見合わせてから、俺はひと仕事を終えたいい顔をする男エルフの尻に向かって頭を下げた。


「すみませんキングエルフさん。悪いんだけれど、その稲わら、分けてもらうことはできないだろうか」


「ふむ――まぁ構わないぞ」


 思った以上にすんなりと、了承の返事は返って来た。

 身構えてしまったこっちがバカみたいだ。と、拍子抜けする。


 いいんですかと顔に出ていたのだろう。わははと、そんな狼狽える俺をキングエルフが笑い飛ばしていた。

 ただし、その表情は一瞬にして引き締まったものに変わる。


「しかし異世界に通じる穴を開くための素材か。なかなか、そのタナカという魔法使いが言っていることは、怪しいように思えるがね」


「怪しい?」


「のじゃ?」


 エルフである。

 こんな武闘派な格好をしているけれども、当然、魔法やら神秘やらにも詳しいのだろう。


 そして、そんな彼がひっかかりを覚える。

 そんなことを聞かされると、こちらもまた妙な気分になる。


 何が怪しいのか。どう怪しいのか。


「もし、そのタナカが言っていることが正しいのなら、今回の稲わらの一味を刈ったことにより、そのゲートが発生してもおかしくはないんじゃないのか?」


「あ、まぁ、確かに」


「のじゃ。言われてみれば、なかなかの惨劇なのじゃ」


「ケツの惨劇っぷりも負けじと劣らずやけれどな」


 尻については置いておこう。

 話がややっこしくなるから。


 たしかに、タナカの言う通りなら、これだけの惨劇が起こったのだから、ゲートが開いたってなんらおかしくないはずである。世界の均衡を保つためのガス抜きが発生してもおかしくないのに――。


 これでは足りないのか。

 それとも、モンスターでは不釣り合いなのか。


 いや、そもそも――。


「あまりそのタナカという魔法使い、信じるべきではないかもしれない」


 そう言って俺たちにまた尻を向けるエルフキング。

 しかしながら今回はそのケツに妙な哀愁みたいなものが漂っていた。


 しばし、俺と加代はエルフキングの言葉を噛み締める。


 魔法使いタナカ。

 本当に、彼を信じていいのか。

 ただ、何にしても、稲束だけは持って帰らなくてはいけない。

 それだけは彼と交わした確かな約束なのだから。


 俺は無造作に置かれている稲束の一つを担ぎ上げると、キングエルフに礼も言わずに持ち上げる。


 一度、タナカに詳しい話を訪ねてみることにしよう。

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