第562話 稲わらを担いで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 調子に乗り過ぎちゃいました。


 野生のなまはげの登場に完全にテンパる桜くん。

 そんな彼を救ったのは――やっぱりこの男。

 いや、このエルフ。


「セクシー!! エルフ!!」


 エルフリアン柔術の使い手、エルフキング。

 見事な無刀素尻取りで野生のなまはげの鉈を絡めとると、彼は肉弾戦へと戦いを持ち込んだのだった。


 そんな激しいなまはげとエルフの戦いを見て桜たちは――やっぱり異世界商人プレイが限界ですわと、己の器を思い知ることになるのだった。


「人間」


「あきらめが肝心」


「のじゃぁ!! だったら最初から余計な事するななのじゃ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 エルフキングはすごかった、すこぶるすごかった。

 それはもう、繰り出されるなまはげの攻撃を尽くいなし、全てにカウンターを入れて、地味に地味にその体積を削っていった。


 真綿を締めるように。

 いや。荒縄を締めるように。


 徐々に徐々に、エルフリアン柔術により削り取られていくなまはげの肉体。気が付けば、自分たちの倍くらいはあろうかというほど大きかったそれは、普通の稲わらの一味と大差ないくらいにまで小さくなっていた。


「なまはげというのは、基本的には稲わらの一味の亜種のようなものだ。彼らの中で、特別体格に優れたものがこの形態になっている。故に、削り取っていけば、最終的には同じくらいのサイズになる」


「……ほぁー、マジですか」


「……のじゃぁ、別にあってもなくてもいいような豆知識なのじゃ」


「……なぁ」


 今更明らかになる稲わらの一味となまはげの関係性。しかしながら、割とどうでもいい話だった。


 だってもう、あと一撃で倒せそうなのだから。


「ギィイイイイ」


 イネガーと叫んでいたはずが、気が付いたらこのザマである。

 本当に稲わらの一味と同じ感じになってしまった。


 となれば、俺とダイコン太郎で倒すこともできるのだろうが。ここで横やりを入れるのは無粋ってもんだろう。


 任せたからには最後までやって貰おう。


「セクシー!! エルフ!!」


 それが掛け声なのだろう。

 ぐるりと正面でろくろをエルフキングが回せば、小さな竜巻のような渦が起こる。それに巻き込まれる形で、斬り揉むようにぐるりと回った元なまはげ。


 ぎいぃと最後の断末魔を上げると、稲わらでできた鬼は――ついにただの稲わらへと還りその場に漂ったのだった。


 あっ、これにて稲わらの一味との交戦クエスト、一件落着。

 エルフキングの勝利である。


「やった!! やったで桜やん!! ワイらの勝利や!!」


「のじゃぁ、なんとかなったのじゃぁ……」


「勝った。だが、虚しい。とても虚しい戦いだった」


 だって、俺たち何もしていないから。

 弱い稲わらの一味を散らして遊んでただけだから。肝心の所で、野生のなまはげから逃げ出して、エルフキングに任せちゃったから。


 ちょっと情けなくって穴があったら入りたい気分になった。

 うぅん、まぁ、仕方ない。こういうことも生きていればあるか。


 パンパンとなまはげを倒した手を払うキングエルフ。

 稲わらまみれのその手からは、黄金色の粉が舞っている。

 激しい戦いだったとばかりに身体を迸る汗。それは――うなじを流れで胸板を通り、あばらに沿って臍へと落ちると、股間のセクシーゾーンに落ちた。


「勝って褌の緒を締めろ!! フンっ!!」


 そう言って、褌を引き締めるキングエルフ。

 絞めるのは兜の緒だろうと言ってやりたい所だったが、それよりも無事に生き残れた感謝の方が大きかった。


 ありがとうキングエルフ。

 サンキューキングエルフ。


 あんた、褌だけれど、マジで俺たちのヒーローだよ。

 変態だけれど、ただの変態じゃない、戦士と言う名の変態だよアンタ。

 立派な褌ソルジャーだよ。エルフキング。


「まぁ、間引く手間が省けて済んだ。稲わらもそれなりの量が手に入ったし、上々の首尾と言っていいだろう」


「ふーっ!! 流石キングエルフさん!! まじパねぇっす!! 尊敬っす!! ごちになりやーす!!」


「キングエルフ、半端ねっぞ。マジ、エルフリアン柔術、半端ねぇ」


「じゃから、なんで衛府の七〇みたいな口調になってるのじゃ!! 桜も大根太郎もいい加減にしておくのじゃ!! 怒られるのじゃ!!」


 いやだって、こんな一方的な戦いを見せつけられたら、そういう感じのお茶らけで場を濁すしかないじゃん。いやはや、実際凄い肉弾戦だったよ。いやぁ、流石のキングエルフですわ。


 エルフのような虚弱な種族が、モンスター相手に戦うことができるのか。

 できる、できるのだって感じだ。

 やっぱり異世界においても、柔術とか剣術とか、そういうのってのは有効なものなんだなぁ。うん、俺も向こうの世界で何かやっておけば、こっちの世界で無双できたかもしれないのに、勿体ないことをしたもんだ。


「プログラマー無双とか、そういうのはなんでないんですかね、異世界」


「まず、コンピューターとかあったら、ファンタジー感台無しやからなぁ」


「それでなくてもこの界隈の人たちは、結構その辺りの描写とかに煩そうだし。変なケチつけて余計なストレスたまるだけだろうなぁ」


「せやな」


「せやろな」


「なんでそんな茫然自失としておるのじゃ!! 生命の危機じゃったんじゃぞ!! もっと生還したことを喜ばぬか!! たわけ!!」


 あっはっはっは。

 人間、あまりにも現実離れしたことが起こると、まともに実況する気にもなれないもんですわ。男塾とかで、真面目に試合解説してるけど、あれもよくよく考えるとすごいことだね。超人的な格闘の前に、自分を見失わずにいられるんだから。


 うん、そのことが分かっただけでも、今回の戦いには意味があった。


「俺より強い奴を見に行く」


「観ることもまた、ワイらにとっては戦いなんやな、桜やん」


「せやで」


「せやな」


「無理やり落とそうとするでない!! ええいこの役立たずなのじゃぁ!!」


 いやいや、加代さんにそれ言われたら、俺らもう立つ瀬がないってもんですよ。

 はははのフォックス。


 いや、もう、ほんと。

 今週はアレね。商人プレイ勢には、きつい展開ですわね。

 商人プレイもまともにできてる感じがしないけれど。


 でていけあんたは桜くんにタイトル変更した方がいいんじゃないでしょうか。

 とほほ。

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