第555話 エルフキングはなんでも知っているで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 ある日、森の中、エルフキングに、出会った。


「この尻に免じて!!」


 森の中でエルフと出会うといえば異世界のお約束。

 しかし、出会ったのは細マッチョの男エルフ。しかもふんどしという奇異な出で立ちであった。


 気絶した桜を介抱してくれる所から、悪いエルフではない。

 しかしながら、絶賛絵面は悪いエルフ。

 尻、気が散って仕方がない。


 こんな子供の教育に悪そうなキャラクターを登場させていったいどうしようというのか。このお小説は健全フォックスフォックス同棲現代ラブコメではないのか。


「のじゃ、既に色々と要素が崩壊している感じがしないでもないのじゃ」


 そりゃともかく。

 新たな登場人物を加えて、今週もでていけあんたは九尾さんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「ふむ。稲の在処についてか。また奇特なものを求めてやってきたものだな」


「……知っているのか雷電!?」


「のじゃ、雷電じゃないのじゃ。エルフキングさんなのじゃ」


 冷徹にツッコむ加代さんはともかくとして、俺は濃い顔で目の前の褌エルフに言った。

 顔も体も間違いなく男〇的エルフ男。民明書房を引用してきてもなんら不思議ではない佇まいで、彼は腕を組んで頷いた。


 ダメもとで、俺と加代は目の前の得体の知れないエルフ男に、この森の中にあるという稲の在処について尋ねてみた。もちろん知ってる訳がないだろうとタカを括っていたのだけれど、森の長にしてエルフの長を名乗るだけはある。

 まさかあっさりと知っていそうな反応を返して来るとは思わなかった。


 腕を組んだまま、エルフキングは話を続ける。

 ただし、民明書房を引っ張っての説明では残念ながらなかった。


「確かにこの森の中には稲が群生している地域がある。我々も、年に二回ほど収穫して集落の貯えにしているから、それは間違いない」


「……おぉ」


「のじゃぁ。マジで知っていたのじゃ。キングエルフさん、思いがけずお役立ちなのじゃ」


「こんなふざけた格好しておいて、なんややるやないか褌キング」


 絶妙に褒めたのか貶されたのか分からない賛辞を贈られるエルフキング。

 しかし、どうやらその長い耳は、それを誉め言葉と受け取ったらしい。

 ふふっとむず痒そうに頬を赤らめて、それから――何故か尻を彼はひきしめた。


 何かにつけてこれである。

 ひきしめないとやってられないんかいと、ちょっとイラっとした。

 まぁ、それはそれとして、知っているなら話が早い――。


 俺はキングエルフに頭を下げた。

 こんなふざけた野郎だが、だからといって侮っていい理由にはならない。

 それでなくても一応キング――たぶん自称だが――である。


 それなりの誠意と敬意をもって物事は頼まなければ。

 酷い目というか、酷い格好を見せつけられたが、それはそれだ。

 立場がなくとも、人として当然の礼儀は示そう。


「頼むキングエルフ。その場所を俺たちに教えてくれないか」


「のじゃ。どうしてもわらわたちは稲が必要なのじゃ」


「頼むで褌キング。同じ、ヒップラインが魅力的な者の頼みや。なんやったら、ワイの股のセクシーラインの秘密を教えるのもやぶさかではあらへんで」


「大丈夫だ間に合っている」


 大根太郎のサービスを無碍に断るエルフキング。

 しかしまぁ、それは仕方なし。

 誰だってそんな秘密教えて欲しくはないだろう。


 断りの文句はまぁ置いてこう。

 ダイコンタロウの申し出を断ったのは妥当な判断だと俺は納得した。


 俺だって要らない。というか、何を対抗意識をもやしているんだ、この腐れダイコンは。まったく、ただでさえ子供の情操教育に悪い格好しておいて。

 始末に負えない腐れダイコンめ。


 はてさて。

 そんなコントは抜きにして。

 キングエルフは腕を組んだまま、ふむとなんだか物憂げな声を出した。


 何か訳アリの感じだが――。


 思わず、加代と視線が交差する。


「のじゃ。この反応はやっぱり」


「まぁ、そうは問屋が卸さないわな。常識で考えて」


「群生しているのは間違いない。しかし、そこがどこにあるか、教えることは難しい。なぜならば――」


 稲の群生地はこの森の中を移動しているのだから。


 民明書房じゃないけれど、なんともたまげた、そしてファンタジーなことをキングエルフは言い出したのだった。

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