第542話 なのもできるなので九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
「のじゃぁ。まぁ、遣唐使の密航に比べれば、たいしたことはないのじゃ」
ギャグ小説の面目躍如。
久しぶりエスプリの利いた歴史ギャグを炸裂させる加代ちゃんなのであった。
いや、ほんと加代ちゃん加代ちゃん。
「……前もこのネタあったような」
「のじゃ。ネタ切れ回避のために異世界転移したのに、さらにそこからネタ切れ起こしてるって、それはどうなのじゃ」
よく覚えてるな。
流石は主人公。
流石だな主人公さん、さすがだ。
「「主人公より作者の方がしっかりしろ!!」なのじゃ!!」
どうもすみません。
それはそれとして、密航により箱の中で過ごすことになったなのちゃんたち。
彼女たちの退屈を紛らわすために桜は、ビクターから渡されたくまのあみぐるみを差し出すのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
かわいい子にはおもちゃをあげよ。
欧米でもまず最初に子供に与えるのは、男女問わずにティディベアだって言うものね。なので、くまのぬいぐるみをあげることはなんらおかしなことではない。
よく見てみると、割と出来が良い。
羊毛できめ細かく編み込まれたそれは、とても俺たちとの会話の片手間で、さっと作られたものとは思えない精巧さがあった。
あの隊商の隊長、頼りない言動とは裏腹にこういう技術は持っているらしい。
もうこんな危ない仕事なんぞやめて、こっちに本腰を入れればいいのに。
まぁ、そうは言っても抜き差しならない事情があるのだろう。
あんまりその辺りは深く突っ込まないでやろう。
なんてたって俺とあの隊長は、客と仕事人の関係でしかない。
この旅が終われば、二度と関わることのない相手だそんな相手に、あれやこれやと思いを馳せてみたところで何にもならない。
なんにしても、今はなのちゃんだ。
喜んでくれるだろうかとその顔を覗き込めば――子供らしくぱぁとその顔が笑顔に染まる。花咲くようにその表情が明るくなるのが分かった。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「なの!! 桜お兄ちゃんありがとうなの!! 大切にするなの!!」
「きゅるくる!! きゅるるぅん!!」
「ドラコも喜んでるなの!! なのなの!!」
思った以上の喜びぶりだ。
はっは、そんなたいしもんでもないんだがな。
タダで貰ったあみぐるみだというのに、ここまで喜ばれるとなんだか申し訳なくなってくる。
隊長の奴にこの喜びぶりを見せてやりたいくらいだ。
「なのぉー、不思議なの、これ、毛糸さんであみあみされてできてるの。それでこんなかわいいくまさんができるなんてすごいの」
「きゅるる、きゅるるぅん」
「なんや、ドラコの方が気に入ってる感じやなぁ。熊とドラゴンってこの世界では仲がよろしいんか」
まぁ、向こうの世界じゃ生態系最強だからなぁ熊さんは。
その辺りのシンパーを、ドラコの奴も感じちゃっているのかもしれない。
見ればその草編みの眼がとろんとしている。
なんという心酔っぷりだろうか。
見ていてこっちが心配になってくるくらいだ。その編み込まれた草の根の向こう側、宿っている赤い生命の光が、ほんのりとピンク色に染まっているのが分かる。
そう、編み込まれた瞳の向こう側――。
編み込まれた――。
「なの!! 同じ編み物だから、ドラコこのくまさんに恋しちゃってるの!!」
「ほぁー!?」
「のじゃぁー!?」
きゅるくきゅるぅんと、唸り声をあげる草編みのドラゴン。
そういえばそうだった。
ドラコはなのちゃんが草で編んで作りだしたドラゴンだった。
同じ編み物だからだろうか、くまのあみぐるみに恋しちゃうのはしかたなかったかもしれない。
しかしまぁ。
「また、唐突にえらいもんに恋してくれたなぁ」
「びっくりしたのじゃぁ。けどまぁ、恋をするのは人の自由、ひいてはモンスターの自由なのじゃ。そうか、ドラコ、恋しちゃってるのじゃ」
「青春やなぁ。ええやん、ワイも応援するでドラコやん」
とはいえ、相手は命のないぬいぐるみ。
そんなの相手に恋をするのがなんともペットっぽいというかなんといいますか。ほほえましい限りでございますなぁ。
でかい図体――今はなのちゃんの魔法でコンパクトに縮小中――に似合わず、可愛らしいところがあるじゃないの。
なんて思っていると。
「なの!! ドラコ、今度そっくりのくまさんをなのがつくってあげるなの!! 羊毛さんだと操るのは無理だけど、植物性の糸なら大丈夫なの!!」
あんですと。
思いがけず、うちのちびっこから出た、作ってあげるというパワーワード。
そいつに俺と加代は目を見開いた。
えっと。
それはつまり。
「なの!! なのにもできるの!! あみぐるみさんつくり!! ついでにドラコみたいに命を与えることだってできるなの!!」
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