第522話 当座のお金と恨みで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
「という訳で、クエストもクリア、業も溜まったボーナスで、幸運値補正がリセットされまーす。これからが、本当の
「「やめて、ちょっと本当にやめて、フォックス!!」なのじゃぁ!!」
クエストクリアで難易度が上がるのはこの世の真理。
とはいえいささか藪蛇に上がった異世界スローライフの難易度。
たまらずフォックスする加代と桜なのであった。
「いや、こんなんハメ技みたいなもんじゃん」
「勘弁して欲しいのじゃぁ。せっかくこっちの世界では安定して生活することができると思っていたのに」
まぁまぁ。
物語も夜の営みも、マンネリ打破は大切ですよ。
「「余計なお世話だよ!!」なのじゃ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「という訳で、幸運値ボーナスについてはこれにてリセット。これからは、本来のステータスでこの異世界をドゥーサバイブです。桜さん、そして、加代ちゃん」
「いやいやいや、異世界転移特典じゃなかったのかよ!!」
「のじゃぁ、チート能力の代わりの幸運値カンストなのじゃ!? なのに、それを奪うとかどういうことなのじゃ!! 勘弁してほしいのじゃ!!」
だまらっしゃいと駄女神がいきなり怒鳴る。
全然貫禄なんてない、コメディトーンな言いぐさ。
ちっともそれは怖くはなかったが、間を見計らったようなその一撃に、俺と加代は思わず反論の言葉を飲み込んでしまうのだった。
いやいや。
いきなりその切り返しは卑怯なんじゃないですか。
なんて絶妙な切り返しなんだよ、そんな風に言われたら誰も言い返せないよ。
この駄女神、ほんとこういう対人スキルについては申し分ないよな。
いったいどこで身に着けてくるんだか。
「だいたい異世界に転移したら、チート能力で楽に生活できるなんて、そんな甘ったれた考え方がいけないんですよ。現代社会は苦労の連続。そんな辛い現実から目を背けて、はたして読者の心に届く物語を紡ぐことができるのかと、私は常日頃から思っている訳ですね」
「いやいや、そういう辛い現実から目を背けるための異世界転移でしょ」
「トレンドの根本を否定してもなにもはじまらんのじゃ」
「辛い現実にあえて立ち向かう勇気。人間賛歌と勇気の賛歌、そんな物語を紡いでいきたい。桜さん、そして、加代ちゃん、貴方たちのような世知辛さ天元突破の憐れみカップルなら、それが可能だと私は今信じることにしたのですよ」
「信じないでくれそんなもん!!」
「迷惑じゃから!! 迷惑!! せっかくの異世界転移なのじゃから、甘い汁吸わせてなのじゃ!! もう辛いのはなんだかんだで勘弁なのじゃ!!」
「そんなこと言って、艱難辛苦が押し寄せれば、なんとかするのがアンタ達でしょう。知っているんですからね私は。伊達に駄女神を長いこと続けてないわ。いろんな作品を横断しているから分かる――君たちはできるキャラクター!!」
なんかそれっぽく説得された。
けれどちっとも嬉しくない。
ほんと、加代が言った通りだ。迷惑千万以外の何物でもない。
せっかくまともな生活ができて、こっちとしても一安心というか油断していたのに、こんな仕打ちはあんまりではないだろうか。
幸運値を奪われて、これからいったいどうやって生活していけばいいのか。
当座の金も、暮らす場所もないのである。
これならまだ転移前の世界で社畜生活していたほうが、最低限の生活ができただけマシだよ。
勘弁してくれ。
こんな生きるか死ぬかのハプニング、異世界転移に求めていない。
もっとぬるめの展開キボンヌ――である。
「という訳で、私はこの辺で!! がんばってぞい!! ぞいぞい!!」
「投げっぱなしジャーマンかよ!! おい、少しはフォローしろよ!!」
「のじゃぁ!! せめて、せめて当面の生活の保障を!! なんとかして欲しいのじゃ!! せめてヒントを、アドバイスくらい残して行って欲しいのじゃぁ!!」
そこは自分で考えなさいよ。
そんな感じでまた切り返されるかと思いつつも、とりあえず加代と同じく食い下がる俺。
すると駄女神。
「まぁ、ヒントくらいならいいですかね」
なんだかちょっとだけ申し訳ない顔をして彼女は立ち止まった。
懐の豊満な胸の中に手を突っ込んだかと思えば、そこからぬるりと何やら取り出す。卑猥なものでもなんでもない。
それは、普通のわら半紙であった。
そう――。
「まぁ、あれですね。こういう時、手っ取り早く稼ぐには、やっぱりコンテストですよ」
「……のじゃ?」
「コンテスト、だと?」
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