第487話 ダークエルフやんで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 旅は道連れ世は情け。

 桜くんと加代ちゃんはカタクリを求めて北の都――中央連邦共和国リィンカーンに向かうことになったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「桜お兄ちゃん、加代お姉ちゃん、いってらっしゃいなの」


「きゅるくぅううん!! きゅうぅうん!!」


 俺にすり寄り鼻を鳴らすドラコ。そして加代の手を取り励ますなのちゃん。

 俺たちも随分と懐かれちまったものである。


 ぐすり目の端から涙か樹液か、よくわからない液体が出る。

 それを加代が拭ってやり頭を撫でると、なのちゃんはようやく落ち着いた感じに加代から離れた。


 危ない冒険にか弱いなのちゃん達を連れて行くことはできない。

 というか、なんだかんだ言って彼女たちはモンスターである。外を出歩かせるのはどうかと思ったし、同じモンスターと出会ったときに戦う姿を見せるのもどうかと感じた。


 なにより家を留守にするわけにもいかない。


 俺たちは彼女たちに家で留守番を頼むことにした。


「あとは任せてや桜やん!! ワイが、なのちゃんはしっかりとプリンセ〇メーカーして立派なお姫様に育てたるさかいに!! 目指せ、シンデレラ!!」


「桜は、大根を装備した」


「あぁん!! ワイなんて装備しても攻撃力は上がらへんで!!」


「家の治安が10上がった」


「内政システム!!」


 そして大根太郎はもちろんお供にである。

 この腐れダイコンをなのちゃんと一緒にしておくことは流石にできない。

 俺たちがいないのをいいことにどんな悪戯を働くかわかったもんじゃないからな。このロリ根は。


 それは俺と加代との間で取り交わした合意であった。

 このセクハラ大根を連れ歩くことに一抹の不安はあったが、家に残して行くことの不安の方が俺たちにとっては大きかった。


 とにかく。


「そういう訳だから、なのちゃん、お家のことはよろしくな」


「のじゃ、なるべく早く帰って来るのじゃ」


「分かったの!!」


「きゅるるーん!!」


 緑の旅立ち。

 俺と加代はなのちゃんに見送られて、蔦に包まれた家を後にしたのだった。

 腰に大根ソードを佩いて、暗澹とした思いで――。


「大根を道連れに旅立つってのも不安だが、雇った護衛人がへっぽこ騎士ってのもなんとも不安なんだよな」


「のじゃぁ。そこはこっちもへっぽこな手前、何も言うことができないのじゃぁ」


 へっぽこサラリーマンにへっぽこ九尾。

 そして腐れダイコン。


 そこにどこまで役に立つのか、へたれ黒騎士が加わって。

 はたしてこの物語はどこに向かおうとしているのか。


 不安だなぁと頭を掻いたその時――。


「桜どの!! 迎えに来たぞ!! さぁ、いざゆかん、冒険の旅へ!!」


 噂をすればなんとやら。

 俺たちの前へとアホ面をぶら下げて黒騎士シュラトが姿を現した。


 しかし――。


「あれ、シュラトさん。その後ろの人は?」


「のじゃ? 黒い肌に長い耳、それに銀色をした髪の毛――まさか!!」


 その背後に控えているのは、いかにも魔法使いでございますという感じの女性。

 そして、明らかに人間離れした美貌を持った少女であった。


 そう――。


「あぁ、彼女はアリエス。私の頼りになる副――仲間だ!!」


「仲間……」


「のじゃ……」


 どうもとぶっきらぼうに頭を下げる女魔法使い。

 へっぽこ黒騎士とは違ってあきらかに頼りになる感じがする。

 いかにも悪の組織のできる女幹部という風格を見せる彼女。


 しかし、それよりも何よりも――。


「ダークエルフやん!!」


 大根太郎がその一番気になる特徴を叫んでいた。


 そう、ダークエルフ。

 まさしくファンタジーの敵側の花形キャラ。

 アリエスと呼ばれたシュラトの仲間は、一目で分かるダークエルフだった。


 ポンコツだけれど長髪の黒騎士。

 いかにも有能そうな銀髪のダークエルフ。


 うぅん。


「これ、なんか、面子的にやばい感じがしない?」


「のじゃ。もしかして、わらわたち、世界を救うのとは反対の方向に加担しているのでは?」


 一抹の不安がよぎったが、今更、やっぱやめたとも言えない。

 彼女が居れば百人力さと豪語する黒騎士。

 そんな黒騎士に無言で頷くダークエルフ。


 ポンコツと有能。

 今の今までへっぽこアドベンチャー、変な事にはなるめぇとタカを括っていた俺は、もしかすると何か選択肢を間違ったかなと、そんなことを思わずにはいられなかった。


「……できることなら、死に戻りてぇ」


「桜やん。そんな人生ファミコンみたいに簡単にリセットはできへんねんで」


 分かってらい腐れダイコン。

 しかし、お前が言うかね、死に戻りダイコン。

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