第484話 カタク〇Xを求めてで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 黒騎士シュラトの依頼でカタクリの栽培を請け負った桜たちであった。


「……しかしこの時、このクエストがまさかあんな大陸の危機を引き起こすことになろうとは、二人は思ってもみなかったのだった」


「「変なナレーション入れるな!!」」


◇ ◇ ◇ ◇


「カタクリ? ないねぇ、流石にそんなマニアックな商品は扱ってないよ」


「のじゃぁ」


「やっぱりか」


 街の中央にある園芸店。

 暇つぶしと小銭稼ぎに始めた薬草栽培。その苗を貰ったそこに、のこのこと顔を出して聞いてみれば、返って来たのは気のいい口調と裏腹に残酷な言葉であった。


 まぁ、想像していなかった訳ではない。

 というかそもそも、そんな簡単に手に入るものならば、あの黒騎士も俺にその採取を依頼して来ないだろう。


 簡単に手に入らないから、藁にもすがる思いで俺たちに助けを求めたのだ。

 仕方ないと俺と加代は顔を見合わせて肩をしゃくった。


「のじゃ。やはり、思った通りのちょいムズのクエストだったのじゃ」


「だなぁ。まぁ、仕方ない」


「おばちゃん、何か他にカタクリについて知っていることはないのじゃ?」


「うーん。そう言われてもねぇ。正直、知り合いで扱っているという店も知らないし、流通業者もそれほど欲しがらないんだよあれ」


「なんでまた」


「便利食材なのじゃ。片栗粉。こちらの世界では需要ないのじゃ?」


 いやいやそうじゃなくってねとおばちゃんは首を横に振る。

 それから、すぐに近くにあったぼこぼこと芽の生えた球根を見つめた。


 それがなんなのかはわざわざ説明してもらわなくても分かる。

 実にスタンダード。

 転移前の世界でもよく見かけた食物。


 そう――。


「のじゃ。ジャガイモなのじゃ」


「異世界転移のキラーアイテム、ジャガイモさんじゃねぇですか。なんでそんなもんがあるんですか。やだー」


「やだーも何もないよ。こいつが南の島国から流れ込んでからこっち、カタクリ粉の生成はカタクリからジャガイモにシフトしちまったんだ」


「「は……?」」


 言っている意味が分からない。

 首を傾げる俺と加代に、仕方ないねぇという感じのため息をおばちゃんは吹きかけてきた。


 木箱の中に入っているそれをひとつ、彼女は掴んで持ち上げる。

 いいかいとごちって、彼女はこの世界の食料事情について語り始めた――。


「カタクリは育てるのが難しくてね、大量生産するにはなかなか骨が折れるんだよ。それに比べて、ジャガイモは寒さに強いし生産も楽だ。片栗粉の生成以外にも、いろいろな用途に使える」


「のじゃ」


「マジか。こっちでも、ジャガイモによる生産革命みたいなのが起こってたのな」


「食ってよし、カタクリ粉なんかの材料にもよし。と言うわけで、ジャガイモによっていろいろな植物の生産が置き換えられていったのさ。カタクリもその代表例でさ――今じゃ育てている農家なんていないよ。もっぱら園芸用さ」


「園芸用」


「けど、ここで扱っていないってことは?」


 これがまた、カタクリは厄介なんだよとおばちゃん。

 長くなりそうなその語りに、俺は、なんでカタクリ一つ手に入れるのに、異世界でこんな苦労をしなくちゃならないんだろうと、今更ながら思うのであった。


 はぁ、これ、ちょっと面倒くさいクエストかと思ったら違った。

 めっちゃくちゃ面倒くさいクエストだよ。


 とほほ。


「根が張って花が咲くようになるまでに数年かかるんだよ。一度咲いてしまえばもう後は楽なもんなんだけれどね」


「のじゃ!! そんなにかかるものなのじゃ!?」


「そう、そんなにかかるの。だからジャガイモにとって代わられたんだよ。育てるのが厄介なんだよ、カタクリはさ。まぁ、花は綺麗だからそれはいいんだけれど」


 おばちゃんが綺麗というからには、それなりに園芸的な価値はあるのだろう。

 しかし、なかなかシビアな現実を突きつけられて、少し眩暈がした。


 これはこのクエスト、諦めた方がいいかなと思ったその時。


「ただまぁ、園芸好きの爺さんがひっそり育ててたりなんてのはあるかもしれない。土地が居るから、この辺りの痩せた土地じゃ難しいだろうねぇ。条件的には――」


 やっぱり、幸運値はカンストしているらしい。

 思いがけず重要なアドバイスがおばちゃんの口から飛び出て来たのだった。

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