第472話 まさかの女神で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
異世界転移してなさなければならない目的を意識し始めた桜。
そんな彼の前に現れたのは、この騒動の全ての元凶――。
「「アネモネ!!」」
「ちゃんをつけろよこの異世界転移野郎ども!! ぷんぷん!!」
駄女神アネモネであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「てめぇー、このアネモネ!! どの面下げて、この大根太郎さまの前に現れやがった!! よくもこんな使えないチート能力与えやがって!! おまけに大根にしやがって!! 桜やんが現れんかったら、ワイはどうなってたか!!」
「あら、いつぞや転生させてやった、憐れなロリコン大根男。元気そうねぇ」
「こいつぅ!! 桜やん、遠慮はいらへん、ワイを思い切りそこの腐れ女神に向かって投げつけてやってくれ!! 後生やから!!」
「……まぁ、お前がそういうなら」
えいと俺はすかさず大根太郎を投げつける。
大根太郎を投げて砕くことに抵抗はなかったし、女神アネモネに逆らうことにもまったく問題はなかった。
まさしく大根太郎が叫んだとおり、俺もこの駄女神には怒り心頭。
頼まれなくても、大根太郎を投げつけなくてはやってられない。そんな憤りを感じていたのだ。
よくもこんな異世界に転移させてくれたなこの野郎。
女だけれど、この野郎。
ピッチャー桜くん、ダイコンを振りかぶって、投げる。
しかし、そこにいたはずの女神は一瞬にしてその姿を消し気が付くと俺の背中側に居た。飛んで行った大根太郎はカジノの床に激突して、憐れド根性大根のような形になってこと切れたのだった。
「さて。大根くんがいると、話がややっこしくなるから、ちょっとリスポーンは待って貰うとしましょうかしら」
「……てめぇ」
「ふっふっふ、駄女神とかいろいろ言ってくれちゃってるけど、女神は女神。普通の人間が私に勝てると思っているの。こんな風に、貴方たちに与えられたチート能力を、一時的に消し去ることなんて造作もないことなのよ」
だから大人しくしてねとばかりにアネモネが笑う。
見れば俺たちの周りには人だかりが出来上がっている。それは決して、俺たちに対して好意的な物ではない。
あきらかに勝ち過ぎた俺たちに対する怨嗟の視線。カジノの従業員、負けが込んでいる常連客、あきらかにカタギじゃない感じの奴ら。
底上げして貰った幸運値で何をやっても上手くいく状況になっていたというのなら、彼女に逆らった瞬間に彼らに襲われても不思議ではない。
ここは彼女が言う通り、おとなしくしておいた方が賢明なようだ。
俺は諦めると、彼女を睨みつける顔だけはそのままに手を下げた。
よろしいと笑ってまたアネモネがスロットマシーンのレバーを引く。
するとぱんぱかぱーんとジャックポットの音が聞こえた。二回連続でジャックポットを引いても、何も嬉しいことなどないだろうに。
しかしながら、やはり女神としてのその権能は本物らしい――。
「さてさて、どうやらこの異世界転生にご不満をお持ちのようね、桜くん。そういう反抗的な態度は感心しないなぁ。人間、従順が一番よ。特に神に対してはね」
「うるせぇ、何が従順なのが一番だ」
「ほらほらそういう所。別に、私の幸運の権能が、貴方だけにかかっているとは限らないのよ。いいのかしら、家がいきなり燃え出したりしちゃっても?」
こいつ、と、舌打ちする俺の前で、ますます愉悦の表情を強める駄女神。
駄女神どころか、クソ女神と言っていいくらいに、性格のねじ曲がっているアネモネ。女だかろいって容赦しねえ。もし彼女が女神じゃなかったらぶん殴っているのにと、歯がゆく思いながらも、俺は彼女に何も言い返すことができなかった。
ふふっ、と、笑って駄女神は続ける。
「なるほど異世界に帰還したい。異世界転移モノとしては、悪くない発想じゃありませんか。そうねぇ、迷える子羊こと憐れな桜くんに、ここは一応、転生担当の駄女神として、一つアドバイスをしてあげようかしら」
「……本当かよ」
「本当、本当、駄女神、嘘吐かない」
嘘を吐かれて気が付いたら、こんなことになっていた気がするのだけれど。
ただ、何にしても――うさん臭くとも、きな臭くとも、今は彼女に逆らうこともできなければ、彼女以外に頼ることができる相手もいない。
聞かせてくれと、俺は駄女神のアネモネに頭を下げた。
うっすらと、その口元が吊り上がった気がしたけれど、大切な同居人たちを人質にとられ、脅しをかけられたとあっては、それ以上のことは何も言えなかった。
普通、異世界モノの駄女神って、もっと緩い感じじゃないのか。
くそっ、なんで違う方向に駄目なんだよ。
勘弁してくれよな……。
頼むからもっとマシな駄女神に担当を変えてくれよちくしょう。
「ふふっ、異世界転移の女神を侮ってはいけないわ。弄られヒロイン枠や、ツッコミヒロイン枠から外れた、そういう女神が居るということを――よく勉強しなさい」
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