第469話 ギャンブルしてもで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
金持ちになっても報われない、受け入れられない。
貧乏が骨身に染みる恐ろしさ。
加代と桜は長年にわたる貧乏生活により、ちょっとどうかしちゃってた。
「のじゃぁ、この幸せ。何か大きな不幸せの予兆なのでは?」
「……のじゃぁあああ!!ってなるのが、今までのお約束だったものな」
「そうはいかん、そうはいかんのじゃ!! 桜よ、気をひきしめるのじゃ!!」
異世界に来てもそれは治らない。
やっぱりどうかしちゃっているのであった。
「「絶対に、絶対に騙されたりしない!!」のじゃぁ!!」
重症であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「桜やん、加代やん。いくらなんでも色々と勘ぐりすぎ言うもんやで。ちょっと自分も見ててどうかと思うてもうたわ」
「なの!! かよお姉ちゃんも、さくらお兄ちゃんも、気にしすぎなの!! このくらいのこと大丈夫なの!! しんぱいしすぎなの!!」
「きゅるくるぅ……」
腐れダイコンとなのちゃん、そしてドラコが慰めてくれる。
そうは言っても身に沁みた、貧乏性というのはいかんともしがたい。
確かに常識的に考えて、気にしすぎ以外の何物でもない。
けれど、それでもやっぱり気になってしまう。
これはもう、長年の生活で培われてしまった病気といって差し支えないだろう。異世界の住人であり、そもそもモンスターの彼らには分からない感覚だ。
いや、大根太郎は元はこっち側の人間か。
けどこいつ、転移前はリア充生活していた腐れダイコンだものなぁ。
きっと貧乏生活なんてしたことなどないのだろう。であれば、俺と加代のこのいかんともしがたい不安を理解するのは難しいと思う。
貧乏というか、やること成すこと裏目に出るというか。
とにかくそんな何をやってもダメダメ感を常に感じてきた俺たちである。
常識的な言葉をかけられて慰められれも、素直にうんとは言えないのであった。
うぅむ。
「人間には分相応というものがある。異世界チートが転移・転生モノの常とはいえ、これはちょっと」
「いざなってみると怖すぎるのじゃ。素直に喜べないのじゃ」
「幸せになるのに理由が必要とか、いくらなんでも貧乏性を拗らせすぎやん桜やんたち。人間はなんもなくても幸せになってええんやで。そういう権利を持ってるんやで」
「大根の癖に、知った風な口を利くなァ!!」
そんなことはこっちも分かっている。
分かっているけれど、不安でしかたないのだ。
ここまで本当に苦労苦労の連続だったから、苦労のないあっさりとした展開に、こっちとしても当惑しているのだ。
だいたいなんだよ。
大根砕いて一攫千金とかさ。
お前、普通に砕けたら元のダイコンに戻って、あぁ、やっぱりそんなうまい話はないよなと、そういう感じで笑い話になると俺は思っておりましたよ。
なのに普通に金塊になるし。
復活はしないけれど金塊にはなるし。
割と砕けたら、ただの金塊になるし。
呪われた、腐れダイコンの金塊とかにならないし。
どうなっているんだよ、まったく。
もう何もかもが予想外すぎて、俺はいっぱいいっぱいだよ。
「異世界なのに、ちっとも苦労する感じがないのが嫌なんだよ!!」
「えぇやん!! 異世界、そういうところやろ!!」
「俺TUEEE!!してた所に、適度にストレスをかけていただきたいんだよ!! 俺ら、現実が辛すぎて転移したタイプじゃないから、別にそういうの求めてないんだよ!! いや、割と辛かったけれど、二人でいれば頑張れた系だったんだよ!!」
「のじゃ、そうなのじゃ!! 割と貧乏だけれど二人でいれば幸せ系の、なんかそういう昭和的なノリだったのじゃ!!」
「そんな古臭いノリだからダメなんじゃない!? 何がとは言わないけれど!!」
はぁ、と、ため息を吐き出す大根太郎。
困惑するなのちゃんとドラコ。
大根太郎はともかく、なのちゃんたちに心配をかけてはいけないな。
やはり、ここはそういうものと割り切るしかと思ったその時――。
「つまり、適度に不幸になりたいと、苦労したいとそういう訳だな、桜やん、加代やん」
「……まぁ、どん底までとは言わないが」
「……障害が多い方が、男女の恋は燃え上がるものなのじゃ」
分かったそれならこれしかないやろ、と、大根太郎がぴょんと飛び跳ねる。
しおれた青い葉をこちらに向けて、彼は俺たちに向かって言った。
「RPG系ミニゲームの王道!! カジノしかあらへんやん!!」
カジノ。
その響きに、びくりと体が震える。
それはそう、連載初期――というか遥か昔に足を突っ込み、不幸に引きずり込まれた場所。遊戯施設。トラウマギャンブル。
そうそこならば、この幸せに釣りあう適度なイベントに出会えるかもしれない。
俺と加代は顔を見合わせた。
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