第468話 順調すぎて怖いで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 三千年生きた九尾。

 突然の大金にたまげてアナフィラキシーショックを起こすの巻き。


「のじゃぁ、そりゃ誰だってびっくりするのじゃ」


「……ごめんね?」


「いや、謝られても困るのじゃけれど。むぅ、自分でも、自分の貧乏性が怖い」


◇ ◇ ◇ ◇


 かくして、もはや十分というくらいに金は稼いだ。

 なんていうか異世界転生モノだったら、早々に目的を達成してヤッフーという感じである。異世界チートで割と序盤でクリアしちゃう感じの展開である。


 自分でも自分の異世界適応能力の高さが怖い。


「いやぁ、やっぱワイなんか持ってるねぇ。主人公補正というか適正というか。なんか絶対もってるねぇ。リスポーンして自分の死体を金塊に還るとか、どういう能力って話でしょう。バグ技強すぎワロチ」


 いや、俺がすごいんじゃなくて、このど腐れダイコンがすごいのか。

 認めたくないけれど、こいつの体で稼がせて貰ったのは、紛れもない事実である。


 本当に認めたくないけれど。


 駄女神にチート能力の代わりに呪われたにしては随分な活躍ぶりだ。この大根太郎、やっぱり異世界転生の主人公なのでは、と、ちょっとだけ思ってしまった。

 まず間違いなく、間抜けな大根姿の時点でそんなはずはないのだけれど。


 それはともかく――。


「のじゃ、幾らなんでも話が順調に進みすぎなのじゃ」


「……それな。俺も思った」


「これまで散々苦労してきた、その寄り戻しにしてもちと強烈なのじゃ。桜よ、わらわは正直に言って、ちょっと怖いのじゃ」


 安心しろ加代さん。

 俺も割と怖い。


 こんな順調に物事が進むだなんて、普通に考えてあり得ないだろう。

 手痛いしっぺ返しがあってしかるべきである。というか、今まで、こういう流れで来た時には、たいがいそういう感じのオチが付いた。


 今回はそういうことがまるでない。

 なんていうか、普通に順調な異世界転移モノ。

 よくあるWEB小説みたいな感じで物語が進行している。


 おかしい。これは非常におかしい。

 俺たちの生活は、もっとこうなんていうか――ギリギリな感じのはずだった。

 なのに異世界に来てからこっち、何か調子がくるっている感じだ。


 ついでにいうと、夜の仲良しもできていない状況だ。

 そらそうだ。大根と幼女とドラゴンの同居人が居るのだから。

 そんなことできる訳がないというものである。


 しかし、それにしても、俺たちの身に降りかかってくる、びっくりするほどの幸福に、正直に言って俺はどうしたらいいのか分からなくなっていた。

 喜べばいいのか、脱力すればいいのか、どうなのか――。


 のじゃ、と、その時、加代がつぶやいた。


「これはひょっとして、神様が与えてくれた、わらわたちへのご褒美ではないのじゃ?」


「あの駄女神が? ないだろ」


「のじゃ、分からんのじゃ。けど、限りなくわらわたちの生活が上手く行っているのは、何かこう、恣意的な物を感じずにはいられないのじゃ」


 うぅむ、そう言われてしまうと、そうとも感じられる。

 いったいどうなのだろうと腕を組んで顔を傾げる加代と俺。

 俺たちはしばし、この優しくて逆に残酷な幸福の真意を――考えた。


 本当、身に沁みるレベルの貧乏ってのは、こういう時に素直に幸福を喜べないから厄介だよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る