第421話 エンゲル係数で九尾なのじゃ

 エンゲル係数が下がる。

 加代がロリ化してからというもの、エンゲル係数がアナゴ下りである。


 ウナギが昇るのでアナゴで下げてみました。

 どうも桜です。巧いこと言えている自信はちょっとありません。


 まぁそれはさておき。

 加代がロリ化してはや二週間。すっかりと戻る気配がないもんだから、栄養を採っても無駄だと割り切りだしたら、そこからもう早かった。


 おいなりさん半パックでご飯が足りる足りる。

 味噌汁もあぶりゃーげ入りの一杯だけで足りる足りる。

 追加で食べてた油揚げ料理も必要なくなり、我が家の家計はみるみると健全な状態になった。


 いやはや。

 もうなんというか物理的に小さくなると必要なエネルギーも小さくなるのね。

 こりゃまた便利なこって。けど、ちょっと小食すぎて、食べ盛り的な観点から考えたとき、その様子が心配ではあるぞ。


「……のじゃ。なんなのじゃ、さっきからじろじろと」


「いや、別に」


 などと思いながら、朝飯時に加代のことをじっと見つめてしまう、そんな桜くんなのであった。まる。


 いや。

 実際問題心配は心配なのである。

 物理的にちっさくなったからって、少食になるって、それ、本当に大丈夫なのと思ってしまうのである。


 もちろん、それについては加代の奴に尋ねてみたが――。


「のじゃ、入らないものは入らないのじゃ。ちょっと食べただけでお腹いっぱいになるのじゃから、こっちとしては大助かりなのじゃ」


 とまぁ、けろりと言ったものだからたまらない。

 本人がいいと言うのなら、こちらもそれ以上言えなくなってしまう。追及できなくなってしまう。


 だからこそ心配。

 やせ我慢してないか心配。

 うぅん――。


 などと唸っている俺の前で、加代がごちそうさまでしたと手を合わせる。余ったおいなりさんをパックに詰めて冷蔵庫に戻そうとする彼女に、思わず俺は待ったをかけた。

 のじゃ、と、加代の奴がその場に立ち止まる。


 うぅん、あまりこういうのはよくないとは思うのだけれども、けど、どっちかが我慢しているのもよくないとも思う。

 俺は意を決して、加代にもう一度、やせ我慢していないか尋ねることにした。


「加代さんや、本当にごはんそれっぽっちで足りてるの?」


「のじゃ、足りておるのじゃ。前にもその話はしたであろう」


「もし、自分の稼ぎがないことを気にして、おいなりさん食べるの遠慮してるんだったら、今すぐ言ってくれ。お前がそんなやせ我慢しているところ、俺は見たくないよ」


「……のじゃぁ。そんな遠慮しておったら、わらわとっくにこの家を出て行ってるのじゃ」


 いやそうかもしれないけど。

 そうかもしれないけどさ。


 信頼できない訳ではない。俺と加代はなんだかんだで、二年近く一緒に暮らしているのだ。そんな相手の言葉を信頼できない訳がない。

 けれども貴方そうやって、いつも遠慮するじゃないの。


 そうやって話を挿げ替えて済まそうとするところがますます怪しい。

 やっぱり――加代は我慢している。


「加代!! いいんだ、無理しなくても!!」


「のじゃ?」


 俺は叫んだ。そして、驚いた加代に縋りついた。

 そのままその場に押し倒して、彼女をひしと抱きしめた。


 いいんだ加代さん気にしなくても。どんなにちんちくりんになって、元からなかった肉がさらになくなっても、加代さんは加代さんじゃないか。


 俺はどんな加代でも愛しているんだ。

 そして、どんな状態でも、我慢なんてしてほしくないんだ。


「遠慮なんていいんだ、さぁ、おいなりさんをお食べよ!!」


「じゃから遠慮なぞしておらんと言っておるであろう!!」


「嫌よ嫌よも好きの内!! その逆もしかり!! 足りているとそれだけ強調しているということは、つまり、足りていないということのなによりの証拠!!」


「本当におなかいっぱいなのじゃ!! 入らないのじゃ!!」


「遠慮せずにお食べよ加代さん!! 俺たちの中じゃないか!! いくらでもおいなりさんをお食べよ!! なんだったらもう、俺のおいなりさんもお食べよ!!」


「フリーズ・ドント・ムーブ!!」


 気が付くと、管理会社の方と、例の警察官が家の入口のドアに立っていた。

 警察官は銃をこちらに向けている。


「なーにが俺のおいなりさんもお食べよだ!! この変態仮面が!!」


「……いや、人の部屋に勝手に踏み入ってそんなこと言います!?」


 ふふっ、銃の一発目が空砲になっているってあれ、ほんとうなのかしらね。

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