第400話 コインランドリーの達人で九尾なのじゃ
そろそろ夏蒲団ともお別れの季節。
いやはや今年も涼しく快適に俺たちの寝る時間を守ってくれたよ夏蒲団。ありがとう夏蒲団、アディオス、グラッツェ、アブドゥル以下略また来年。
そんなことを思いながら、夏蒲団ことタオルケットをビニール袋に詰めて、俺と加代はコインランドリーへと向かった。
そう、コインランドリーにタオルケットを洗うために向かった。
それだけだったのに。
「のじゃァーっ!!」
「加代ぉぉおおおwwwwwwww!!」
加代ちゃん、大回転。
まさかの超級覇王電影〇である。
コインランドリーの大型水栓機にすっぽりはまって加代さんは、ごろりごろりと回っているのだった。
流石の化け狐、体を張ったそのギャグに、笑わずにはいられない。
ようやく止まった洗濯機兼乾燥機から這い出た加代は、なんてことなのじゃと、目をぐるぐる回しながら俺に向かってふらふらと歩み寄ってきた。
「
「のじゃぁ!! こんな最新式になっているとは思っていなかったのじゃ!! こんな高速大回転、九尾でなくても目が回るというもの!!」
「というか、お前みたいな奴しか中に入らないっての!!」
おえぇえぇと嗚咽を上げる九尾の同居人を生温かい目で見守る俺。
季節の変わり目。
冬毛と夏毛の生え換わりに、加代の奴はよくこのコインランドリーで、全身丸洗いをしたりしていた。そう、それはもう、我が家の密かな風物詩とばかりに。
しかしながら――このコインランドリーの洗濯機が、最新式になったのだ。
洗濯と乾燥がこの一台で。
今流行りのドラム式。
高速回転、こみこみ40分。
そんな洗濯機に入ったばっかりに。
この超級覇王電影〇である。
いや、前にやった気もするが。今回は本人も参るくらいの大回転。
見事な狐大回転に、俺はもう、なんというかここ二・三日の仕事の疲れもふっとぶくらいに盛大に笑った。
いやぁ、笑いは一番の薬とはよく言うが、身内にこれだけ笑かしていただけると、病気になる暇もないね。
ふはは。
「いやぁ、こちらをじっと見つめながら回転している加代さん。ただそれだけなんだけれども、それだけで笑えましたわ。ありがとうございます」
「笑いを取ろうとしてやったわけじゃないのじゃ!!」
「知ってる。冬毛を取ろうとしたんでしょう?」
「分かってたのなら笑ってないで助けるのじゃ!!」
いや、助けるも何も、自分から入ったんじゃないか。
これ新しい奴だから、絶対にヤバいってと、俺が止めたにもかかわらず、なーにどうってことないのじゃと、なんかハリウッド映画の死亡フラグみたいなの立てて、自分から洗濯機に入ったんじゃないか。
それで助けろとか無茶を言うなよ。
それと、助けようと思って助けられるもんじゃないよ。回転中のコインランドリーの蓋なんて、危なくて触れないってぇの。緊急停止ボタン押して、すみません、同居人が中に入って洗われていて――なんて、間抜けなことも言えないしな。
自業自得フォックス。
ゲタゲタと、加代を指さして俺は笑い飛ばしたのだった。
まぁ、それはさておき。
「流石は最新式、目は回ったが、ばっちり乾燥――夏毛がすっかり抜けたのじゃ」
「転ばされてもただでは起きないな。流石は加代さん、タフだなぁ」
回した目をぱちくりとしばたたかせながらも、えへんぷいとふんぞり返って綺麗になった耳と尻尾を見せつける加代。流石は最新式、鮮やかなきつね色になったその毛並みを眺めながら、俺はうんうんと頷くのだった。
そして――。
「流石にこの後で、タオルケットを洗わないと、次の人に迷惑だよな」
「のじゃ。というか、それでなくても抜け毛がえらいこと溜まってるのじゃ」
「なのに何故入る」
「九尾丸洗いなんて、なかなかできるところはないのじゃ。のじゃ、どっかの誰かがペットサロンにでも連れて行ってくれれば話は別じゃがのう」
じとりと俺を見る加代さん。
そんなお金も余裕もなければ、ペット屋に連れて行って、この狐どうしたんですかと問われて返す言葉も見つからない俺は、つつっと視線を逸らすのであった。
というか。
割と頻繁にお風呂で洗ってやっているような気が――。
げふんげふん。
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