第386話 パソコン買い換えで九尾なのじゃ

 我が家のパソコン様がお亡くなりになりました。


「……まぁ、最近ファンがやたらに排熱しているなとは思っていたよ」


「のじゃ。ろうそくの火は消える時に最も輝くとはよく言ったものじゃが、ノートパソコンのファンも同じじゃのう」


「なーにうまいこと言った感じにしてるんだよお前」


 のじゃはははとお亡くなりになったパソコンをちゃぶ台の上に置いて、俺と加代は笑いあった。まったく笑えないのに笑いあった。


 はぁと出たのは、ファンの排気熱ではなく溜息だ。

 この金のない貧乏暮らしに、パソコンが壊れるのは手痛い。


 まぁ、仕方ないか。

 加代が来てからこっち、稼働率が高かったからな。


 ノートパソコンの平均寿命時間はだいたい5年である。それを考えれば、まぁ、平均には満たないが、よく持った方だろう。いままでよくがんばってくれた。


 もちろん、こちとら本職。

 技術があるので壊れた個所――HDDやメモリなどの代替可能なパーツであれば――を修繕すれば、治せないことはない。

 だが――。


 技術的な寿命というのが世の中にはある。

 そう、時代遅れという奴だ。


 時代と共にパソコンのスペックは上昇する。

 その上昇した分だけ、パソコン上で処理されるソフトウェアも高級になる。

 ことさら基本ソフトウェア――OSオペレーションシステムのバージョンはハードに大きく依存する。


「さすがにいつまでも7を使ってるのもどうかって話だしな」


「のじゃ、XPよりはマシなのじゃが。そろそろ移行したい所じゃのう」


「それでなくても動画サイトの表示もカクついてたし」


「これを機にちゃんとしたのを買いなおすのじゃ」


 いや、結構ちゃんとした奴なのよ。

 前の会社でお仕事で使ってたのと同じモデルなんだから。

 なんでそんなの選んだかと言われたらそらお前――持ち帰って家でプログラムの動作検証しやすいからってことよ。


 ほんと、高い買い物だったぜ。


「今の会社は、そこまでする必要ないから、多少安いのでもいいか」


「のじゃ? ちゃんとしたのといいつつ、廉価PCにするのじゃ?」


「いや、流石にそこまでは――ただ」


 新品までは要らないかな。

 そう言って、俺はスマホでパソコンメーカーの直販サイトを見始めた。


 ゆっくりと下の方にスクロールする。

 そして、ひっそりと隠されるように配置されたリンクをクリックした。


 そうそれこそは――。


「のじゃ!! アウトレット!!」


「そうそー。もう調製品でいいかなって。まぁ、多少難はあるかもだけど、基本的には大丈夫だろ」


 アウトレット――いわゆるメーカー整備済み品である。

 大手パソコンメーカーなら、最近はどこでもやっている特販だ。


 まぁ、そこはパソコンも人間の造るもの。

 だから、当然のように不具合のある品が出ることがある。

 それでなくても人間がする商取引。

 やっぱりいらないキャンセルということもある。


 ここ数十年はパソコンもオーダーメイドの時代にすっかりなってしまった。メモリやHDDの容量を指定して組まれたそれが――返却されてくると意外と手痛い。


 という訳で、返品されたそれらを何割か安くして、こうして公式通販で売っているという訳である。構成に自由度がない分、廉価になる訳だが、あまりに人を選ぶので――こうして知る人ぞ知る場所でひっそりと売られたりしている訳だ。


 という訳で。


 できるIT系カップルである俺と加代に、新品を買うという選択肢はなかった。

 メーカー調整済み品。おおいに結構じゃないの。望むところというもんだよ。


「お。これなんかいいんじゃね。CPUは7だし、HDD容量も申し分ない」


「のじゃぁ、けど、外部出力がちょっと微妙ではないかのう」


「あー、まぁ、それはあるかもしれん」


「HDDとメモリは後からなんとでもなるのじゃ。けど、出力端子とCPU、あと画面サイズばかりはどうにもならないのじゃ。そこん所をよく考えるのじゃ」


「うーん、確かに」


「あと、別にノートPCにこだわる必要もないのでは? 据え置きのデスクトップPCの線でも考えてみてもいいかも。というか、そっちの方が拡張性が――」


 やんややんや。

 なまじ二人とも、分かっている人間だけに、妥協がない。

 俺たちはスマホからタブレットへ持ち換えて――徹底討論を始めたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「……という訳で」


「……まさかのブレードサーバーを買ってしまったのじゃ」


 安定と安心のブレードサーバー。

 あれだ、よくIT系企業のCMとかで目にする奴だ。

 いわゆるケーブルがわちゃーって出てる奴だ。


 これがあれば、なにがあっても大丈夫。

 省スペースで並列稼働。いざとなったらミラーリングで保守もばっちり。壊れたならば、ブレードを差し替えれば万事解決である。


 いやぁ、買ってよかった、ブレードサーバー。

 筐体の初期投資が高いけれど、これで壊れても安心してPCが――。


「「って、流石にこれはやりすぎフォックス!!」」


 ワーカーホリック。

 病院に行かなくちゃいけないくらいに仕事中毒ワーカーホリック


 せっかく仕事と同じPC用意しなくてよくなったのに、なんで仕事でしか使わないようなPC買ってんだ俺たちは。


「しかもモニターがないよ!!」


「KVMは高いのじゃぁ!!」


「なんで止めないんだよ加代!!」


「だって、相対的に見たら、お値段お得かなって思ったのじゃぁ!!」


 アウトレットでブレードサーバー出ていたのが運の尽きフォックス。

 悪乗りで買ってしまうのもまた――IT系カップルのサガなのであった。


 とほほ。


「……とりあえず、ファイルサーバーでも立てて置く?」


「……のじゃぁ、そうするのじゃ」

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