第383話 就活セミナーで九尾なのじゃ
「就活セミナーの講師のお仕事が入ったのじゃ」
「……就活連敗しまくってるのに!?」
俺は飲んでいたコーヒーをちゃぶ台の上に置くと、論理的に破綻したことを言う狐に向かって辛辣な言葉を浴びせた。
いや、まぁ、うん。
一応、加代は俺と同じ会社に勤めているし、弁当屋のバイトもしている。
他にも、いろんなバイトを掛け持ちしているから、まったくの職なし芳一という訳ではない。
それは間違いない。
けれど、九尾にかけてクビになること、怒涛の如く。
かれこれ一年分くらいクビになっているオキツネなのである。
そんな彼女に就活セミナーの講師なんて。
「務まるとは思えない」
「失礼なのじゃ」
「お前に教えて貰えって内定が貰える未来が見えない」
「失礼なのじゃぁ!!」
尻尾と耳をぽぽんとはやして加代が怒る。
俺に煽られただけですぐこんな感じになっちゃう加代ちゃんである。ポカしてお仕事九尾になることいつものことの加代ちゃんなのである。
こんな娘に教わることなどあるのだろうか。
俺は加代にじっとりとした、湿った視線を投げかけたのだった。
「のじゃぁ、確かに、
「別じゃないのじゃ。そういう根本ができていないのに、人に教えられるわけないだろうが。というか、何を教えるんだよ」
「……履歴書の空白の埋め方!!」
なるほど。
確かにそれは加代さんにしか教えられないことですわ。
お仕事を長いこと転々とされて、職歴まともに書くことができない、加代さんだからこそ書けることだわ。
ごめんよ加代。
お前に教わることなんて何もないなんて言って。
それは確かに、お前じゃないと人に教えることのできない、立派な就活テクニックだよ。そのテクニックで、世の中の不幸な人を救ってあげてくれ。
そうだよな、お前も苦労してきたもんな。
思わずまなじりに熱いものが迸った。
うぅん、加代さん、ほんと不憫。
「のじゃのじゃ。何を隠そうこの加代さん、履歴書の空白を埋めることに関しては、ちょっと自信があるのじゃよ」
「そうじゃろうのう、そうじゃろうのう。苦労しておるもののう」
「なので、どうやってそれらしく――試験官に怪しまれることなく空白を埋めるのか、それについてはいろいろとテクニックを知っておるのじゃ」
ぜひ、レクチャーをしてやってくれ。
というか、俺にも教えてくれよ。
そう涙ながらに言うと、加代はない胸を張って、おそらくそのセミナーで使うのだろう履歴書を取り出したのだった。
うぅむ、人間、苦労した分だけ、特技というモノは身につくものだな。
加代、お前にも人に教えることができるだけの、技能というのがあるのだな。
俺はなんだか、ちょっとだけそれが嬉しいよ。
「のじゃ。まずはそうじゃのう、生年月日から書かねばならぬ」
「いや、そこ、言うほど重要か?」
「重要なのじゃ。なにせ――普通に言うても分からんからのう」
そして彼女は生年月日の欄に――天平7年とMTSHで表すことのできない年号を記載したのだった。
うぅん。
「ここで試験官に伝わるよう、かっこで西暦を記載するのが分かりやすくするコツじゃ!! 735年なのじゃ!!」
「そのレベルから空白埋めるの!?」
思った以上に大変そうフォックス。
というか、そんな履歴書で合格するんだ。
デーモン小暮閣下じゃないんだから。せめて、世を忍ぶ借りの年齢で履歴書くらい作ろうよ。そりゃ、埋めるの苦労するわ。
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