第379話 ハンバーガーショップで九尾なのじゃ

 嘉〇達夫の曲で何が好きと言われればハンバーガーショップである。

 モンスターやらクレーマーやらという概念が発生する前に、あんな歌を作り上げ、世に出していた彼は天才だと思う。いや、歌詞に歌われた世界観はどうかと思うが。


 どうしてそんなことを思うかって。

 もう、なんというか、この話も長くなってきた。

 だから、悪いけれど、タイトルの出オチで即理解していただきたい。


「コンバーガーショーップ」


「はーん!!」


「コンバーガーショーップ」


「あーん!!」


「熱い季節の終わりに、コンバーガーショーップ」


 コンバーガーショップである。

 会社近くのファストフード店で、ちと久しぶりにハンバーガーでも食べるかなと思って入ってみれば、同居人とエンカウントしてしまった。


 このちょろっと入った店で、知人と遭遇するという展開、本当にどうにかならんものかね。ただでさえ、プライベートで知り合いと顔を合わせるというのは、なんかこう困るものがあるというのに。同居人と顔を突き合わせるのはそれ以上だ。


 そしてなにより。


「なんだよコンバーガーって!!」


「コンバーガー。それは、狐のための狐による狐フードなのじゃ」


「それっぽいこと言った気かもしれないけれど、少しも伝わってこないから!! というか、どうせ油揚げがパンにはさまれて出てくるんだろう!! オチは見えてるよフォックス!!」


 カウンターに立つ加代に、俺は容赦なくそんなツッコミを浴びせた。

 そう、もうなんというかオチは見えている。


 というか前にサンドウィッチ屋ネタはやったじゃないか。コンバーガーかなんだか知らんが、ハンバーガーも広義にはサンドウィッチ。


 ネタ被り。

 そして、どうせアブリャーゲオチなのは、言うまでもなかった。


 しかし――。

 ぎろりとカウンターに立つ加代の瞳が光った。


「お客さん、頼みもしないのに勝手にうちの商品について、あれこれと言ってくれるのはよしてくれるかな、なのじゃ」


「……この気配。どうやら本気フォックス!!」


「まずは食べて判断してくれなのじゃ」


 そう言って、加代は俺の前にすっとメニューを差し出した。

 そこに書かれていたのは――。


「あぶりゃげばーがー!! あぶりゃげちーずばーがー!! あぶりゃげだぶるちーずばーがー!! あぶりゃげびっくあぶりゃげ!!」


 やっぱりあぶりゃーげだった。

 食わなくても分かるっての。


 お前もう、名前の時点でお腹いっぱいだよ、こんなの。


「やっぱりあぶりゃげじゃないか!! しかもあぶりゃげびっくあぶりゃげってなんだこれ、どんな食べ物だよ!!」


「まぁ、わらじとんかつみたいなものなのじゃ」


「たとえ!! たとえ、お前、もう、たとえ!! 東海地域の人にしか分からないような、絶妙なたとえをもってくるな!!」


「ちなみに、みそとデミグラスソースの、二つの味が合わさっているのじゃ」


「混ぜるな危険!! あれも半分ずつ分けてあるでしょ!! って、だから、一部の地域の人にしか分からないネタはやめて!!」


 分からない人は矢場と〇で検索してみてください。

 最近久しぶりに食べたけれど、ちょっと昔より小さくなってた気がするのは、やっぱり時代の流れというものなのかもね。


 って、そんなことはどうでもいいんだ。


「やめた。もう、油揚げ料理は家で十分なんだよ。俺は帰る」


「のじゃお客さん!! せっかく来たのにそれはないのじゃ!! つれないのじゃ!!」


「つれるつれないじゃないんだよ。だいたい、狐のための料理なんだったら、人間は食べちゃいかんだろう」


 俺は違うハンバーガーショップに入ることにします。

 そう言って立ち去ろうとした俺を、カウンターから手を伸ばして加代が止めた。


 えぇい邪魔をしてくれるか加代さん。

 というか、必死だなおい。なんかノルマでもあるのか。


「一個だけでいいから、セットで頼まなくていいから、買ってほしいのじゃ」


「……えぇ」


「お願い、同居人のよしみで。家帰ったら、このお礼は必ずするのじゃ」


「……しょうがねえな」


 必死に頼まれては仕方ない。いったい何をしてもらおうかな、そんなことを考えながらも、俺は加代さんからメニューを受け取って、胸やけのしそうなメニューを眺めた。


 うぅむ、どれもやっぱり食べたくない。

 チーズなんて論外だ。

 ビッグアブリャゲなんて――とてもじゃないが食えるわけない。


 となると消去法で選ぶべきメニューは決まってくる。


「アブリャゲバーガーひとつ」


「あいよ、アブリャゲバーガー、大急ぎで一丁!!」


 一丁って、お前、豆腐じゃないんだから。

 威勢のよい掛け声をバックヤードに送る加代さん。その声に一抹の不安を感じていると――奥でばたばたと人が動き始めた。


 焼かれるバンズ。

 用意されるアブリャーゲ。

 包装紙の上に置かれたバンズに、レタス、ピクルス、アブリャーゲが次々に手際よく置かれていく。


 ケチャップとマスタードが載せられて、そこにバンズを載せると、くるり包装紙で巻き込む。出来上がったそれが、すっと受け取り口に投げられた――。


 かと思えば!!

 直前で謎の手がキャッチ!!


 代わりに、きつねうどんが受け取り口には置かれたのだった。

 そしてそれをトレーに載せる――ポンコツ九尾。


「あいよ、きつねうどん一丁!!」


「アブリャゲバーガー!! アブリャゲバーガー食わせろよ!!」


 食いたくないけど、頼んだんだからちゃんと頼んだものたべさせろよ。


 やはりサンドウィッチ屋。

 たとえお店が変わっても、オチは同じということだった。


 とほほ。

 やはり情に絆されるもんじゃないね。

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