第375話 ムードが大切で九尾なのじゃ
幸せ家族計画!!
いや、まぁ、たまにはアパートじゃなくて、ホテルとか行って、夜の営みに緩急をつけたいくらいに同居も長引いてまいりました。
そんなことしなくっても、俺と加代さんはいつだってラブラブフォックスなんだけれどね。見つめあうだけで盛り上がれるんだから、倦怠期なんてありませんよ。
うん、言うてて、ちょっと自分でもアホらしくなったわ。
ワハハ。
とまぁ、そんなおふざけはさておいて。
実家に帰った際に、ちょっと手伝いしたら小金が手に入った。
その使い道についていろいろと考えた結果、旅行に行くだけの体力はないので、たまにはそういう所に行こうとなった訳である。
旅行する体力はなくても、いちゃこらする体力はあるんだよね。
ワハハ。三十過ぎても元気元気。
はい、そろそろ自重しますね。
「同じホテルでも予約サイトによって価格が違うことがあるってご存知だけれど、流石にこれについてはねーんだな」
「のじゃ。一応ビジネスホテルと同じ括りのはずなのじゃが。流石にのう」
「しかしホテルまとめサイトがあるってのが衝撃だわ。しかもサービスを比較検索できるとか、どういう事情でこんなもん造られたのよ」
「のじゃぁ、どういう事情と言われても、利用している
やだ加代さんってば、哲学的ィ。
ホテル情報サイトを覗き込んでいるとき、私たちもまた、ホテル情報サイトに覗き込まれている――ということね。
分かるわ。
という訳で、家族計画だけに計画が大事。
俺たちはどのホテルに泊まるのか、パソコンで念入りな調査を行っていた。
行き当たりばったりで入って、なんかこう古めかしいところだとショックが大きいからね。こういうのはさ。
やっぱり入るなら、ちょっとお洒落で高級感のあるような所がいいよ。
「あと、あれですね、こう、イメチェンしやすいところがいいですね」
「……さらりと出されたお主の趣味に、
「なんでさ!! 気分変えるために行くんでしょう!! だったら気分が切り替えられるサービスが充実している方がいいじゃん!! 間違いないじゃん!!」
というか先週、俺の性的嗜好は暴露したばっかりじゃないのさ。
受け入れてよフォックス。
またそんな虫けらを見るような目で見ないでフォックス。
うぅっ、同居人が厳しくて辛い……。
そんな顔をしながら、俺はホテルの検索窓に検索条件を入力した。
「水着、プール」
「先週より症状が悪化してるのじゃ!!」
「なんだよぉ!! 夏なんだからいいだろ!! 結局プールでいちゃこらできなかったんだから!! 結局プールでいちゃこらできなかったんだから!!」
「プールは泳ぐところなのじゃ!!」
大事なことなので二回言ってやった。
そう、今の世の中ホテルも一つのアクティビティだ。
ただベッドが回転するだけじゃ、ホテルも食っていけない昨今である。
温泉、プール、特殊な器具、特殊な部屋。
なんかそういう特別感が大切になってくるご時世なのだ。
普通のホテルなら、ホテル検索サイトで一番安いお値段で泊まればいいんだよ。
とにかく、プールは譲れない。
俺はそのキーワードを入力したまま、検査ボタンを押下した。
すると――おぉ、出るわ出るわ。
「結構あるのな、プール付きのホテル」
「のじゃぁ、感心してる場合かなのじゃ」
「こことか清潔感とかあってよさそうだよね。どう、加代さん?」
「知らんのじゃ!! 勝手にすると――うん?」
そう言って加代の奴が目をぱちくりとさせる。
何をそんなガン見しているの。
ははん。さては、なんだかんだいいつつ、加代ちゃんもプールでイチャコラしたかったんじゃないの。やだもー、むっつりスケベなんだから。
そんなことを思う俺の横で、加代はパソコンのディスプレイに指を伸ばした。
そこに書かれていたのは――。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、ま――え? えっ?」
「まぁ、水道費だけで結構かかるからのう。お高くなるのは、仕方ないかのう」
宿泊費が、なんというか、外国人VIPが泊まるお部屋並み。
流石に小金が入ったとはいっても、こんなのに泊まったら赤字である。
というか、普通に泊まれない。
「例のプールとかで身近なものなのかと思ってたけど。やっぱり遠いんだなこれ」
「のじゃ、例のプールも、使用料結構するのじゃ」
まじで。
妙に詳しい加代さんに問い返しながら、俺はなんだか家族計画のやる気が急速にしぼんでいくのを感じていた。
とほほ。まぁ、世の中こんなもんよね。
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