第350話 もしかしてと思ったらで九尾なのじゃ
ブチギレの桜で通って久しい、俺こと桜である。
自分でいうのはなんだか嘘っぽいけど、仕事についてはそこそこできる方だ。
なので、いい歳して仕事をぽしゃらせても、特にお咎めされることもなくここまで来た。一応、俺も無意味にキレるようなことはしなかったし、そこら辺のバランス感覚はしっかりともって仕事はしてきたつもりだ。
キレるのにもキレるなりの流儀というものがある。
無意味にブチギレていいのは餓鬼と漫画の登場人物だけだ。
現実でそんなことをしたら――まぁ普通に社会からつまはじかれるだけ。
世の中そんなに甘くないっての。
なんて思っていたら。
「桜くんさ、一度、心療内科受けてみた方がいいんじゃないかな?」
上司から突然呼び出されて、そんなことを言われるのであった。
業務中。
急ぎの仕事が終わったと思い一息ついたその瞬間にである。
他の社員の面前で言われなかったからいいもののの――。
いや、いやいや、いやいやいや。
「あんたらが俺に意味の分からん量の仕事を振るからでしょう!?」
そんな風にブチギレてしまうのは仕方のないことであった。
だってほら、俺、ブチギレの桜だし。
そんな俺を会議室の椅子に腰かけて、うぅんと、難しい顔をして眺めるのは、何かとお世話になっているゲン〇ウみたいな顔の係長。
ほんと、ゲン〇ウみたいな顔しているのに、なんでこの人ってば面倒見いいの。
課長とかよりよっぽど頼りになるんですけど。
仕事はどっこいどっこいだけど。
「ほらまたキレた。それ絶対、なんか変なストレス抱えてる奴だよ」
「いやいやいや」
「仕事の量はね、正直、桜くんには厳しい仕事を任せてるとは思ってるよ。けどほら、そこはうちも会社だからさ――確実に捌けると思って任せてるわけ」
「はぁ。だからキレるなと?」
「いやストレスにならないギリギリのところを攻めてるつもりなのよ。それでもキレちゃうってことはさ。言っちゃ悪いけど、何か問題抱えているんじゃない?」
どうして会社にプライベートのことを心配されなくちゃならないんだろう。
親身といえば聞こえがいいが、いらん世話というものである。
というか、そもそもそんなの関係ないだろう。
そのプライベートも推し量って、俺が真面目に仕事できるようにするのが、アンタら管理職の仕事じゃないのかと。
俺たちは仕事をするだけの
感情だってあるし、生活だってあるし、プライベートだってある。
その辺りをちゃんと察していただきたい。
病気だとか性格だとか、そういう簡単かつ短楽な話で片付けないで欲しい。
とはいえ――。
会社はともかく、それを俺に言った本人は、割と本気で心配してくれている。
いや、違うんだよと、額に汗して慌てた顔をするゲ〇ドウ係長は、正直、中間管理職の悲哀を嫌と言うほど感じさせてくれた。
うぅむ。
どう言ったものか。
「いやね、病気じゃないかって言われて気を悪くするのは当然だと思うんだよ」
「そりゃそうでしょうね。あんま気分のいいものではないですし。というか、誰のせいでこんなことになったんだって感じですから、こっちとしては」
「うん。そうだよね。だからこそ、一度そういうところで見て貰いたいんだよ」
「はぁ」
「僕もその――大きい声では言えないけれど、いろいろと苦労をしてきたからさ。ストレスで取り返しのつかない所に行く前に、踏み止まることって大切だと思うの」
あ、この人。
やっぱそれなりに苦労している人なんだな。
言いにくそうに自分の過去を語ってくれたゲンドウ係長。
流石に俺も――だが断ると、彼の言葉を無下にすることはできなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃぁ。なるほどなるほど。それで当院を受診したのじゃね」
「えぇ、まぁ」
「経緯は分かったのじゃ。それじゃ、ストレスの自覚症状は何かあるのじゃ?」
「そうですね強いて言うなら――どこに行っても、知った顔に出くわすんですよ」
「……のじゃ、それは酷い。典型的なせん妄なのじゃ」
「なに食わぬ顔でね、いきなり俺の前に現れてね。ある時はナース、ある時はタクシー運転手、そしてまたある時は心療内科の女医さん、てなもんですよ」
「まったく脈絡がない!! そんなこと現実に起こりうる訳ないのじゃ!! 狐に化かされておるのではないか!!」
えぇ、今まさに現在進行形で。
心療内科に行って
ぶっちゃけ、お前がこうして色んな所に出て来なくなってくれるだけで、俺としては随分と気が楽になるんだが。
そうはいかないんだろうねこれまでの話的に。
「うぅん、精神的に参った時には甘いモノなのじゃ。お稲荷さん三日分出しときますね」
「結局そこに繋がるんかい」
とほほのフォックスである。
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