第349話 コミケの抑止力で九尾なのじゃ
加代がなんか黒くなってた。
狐色の髪もこころなしかいつもより白みがかっている。
いったいいつのJKオキツネだろう。
やだやだもう、こういうのはちゃんと世のトレンドを追って描画しないといけないよね。今どきそんなガングロ系JKとか居ないよ。
エロ同人でちょっと見るくらいのそんなレアケースだよ。
「私は――加代ちゃんオル〇!!」
「……あんだって?」
「世界の抑止力としてこの場に顕現した!!」
「日サロと
「……のじゃぁ。こっちが真面目な感じで行こうとしているのに、なんで話の腰を折るのじゃ」
ポン、と、音を立てて加代の奴が元に戻る。
いつものシルエットにほっとすると同時に、どうしてそんなことをしたのか気になった。
このオキツネ、どういうつもりなのだろう。
「のじゃのじゃ。加代さん、今年は夏のコミケでコスプレして、売り子をすることになったのじゃ」
「あれ? 先輩からそんな話頼まれてたっけ?」
「……ママが『封神〇義リバイバルブームでワンチャンあるわぁ』って、個人サークル久しぶりに再開したのじゃ。で、ハクと一緒に駆り出されたのじゃ」
「……なるほど」
俺はそれを聞いて納得した。
いやはや、相変わらずいろいろと忙しいオキツネ一家である。
家長の妲己さんに振り回されてる辺りが悲しいが――そこは日本はおろか世界に知られた大妖怪だから仕方がない。
家族が振り回されない訳がない。
まぁ、その大妖怪も、過去の栄光のさらに栄光に縋っているのが――なんともはやだが。
というか、今年の夏は来るのねお母さん。
そして参加するのね加代さん。
けどなんでFG〇。
「……とはいえ、封神〇義だけだと不安じゃから、ハクがFG〇で別サークル立てて参加したのじゃよ」
「わぁ、二人とも割とコミケガチ勢じゃん」
「そしたら見事に一日目と二日目で当選。今年は忙しくなってしまうのじゃ」
しかも壁サークルとぐっと親指を立てる加代。
ほんと、割とガチ勢ですね。
絵描きネタからこう転がるとは思わなかった。
狐一家のマルチな才能に嫉妬ですわ。
なるほど、それでコスプレならぬ化けの練習をしていたという訳か。そりゃ仕方ないねと、俺は納得して頷いたのだった。
「よかったら、桜もお手伝いするのじゃ? ドーラン塗って、二人で世界の抑止力ごっこするのじゃ?」
「ノーサンキューでお願いします。というか、夏コミは暑いから、先輩から頼まれても断ってんだんよね基本的に」
「暑いからこそよいのではないか、と、ママもハクも言うんじゃがのう」
ちっとも分からんがのうと加代の奴が溜息を吐く。
どうやら彼女も巻き込まれた口。身内が出るから仕方なく参加するが、本心は別にどうでもいいらしい。
まぁ、給料良いって言うしね、売り子さんって。
しかもコスプレだし。
胸こそないが、一応プロポーションはいい線いってる加代さんである。
流石は妲己さんの娘。胸さえ目を瞑れば、女性として満点だ。
万が一にもそういうことはないと思う。
ないと思うが――。
なんだろうこのもやもやと胸に湧き起こってくる気持ちは。
「どれ、それじゃ、水着モードに化ける練習でもしておくかのう」
「水着モード!?」
「夏イベでのう、そういうモードがあるそうなのじゃ。胸の大きさについてはどうしようもないとして、格好くらいはそれっぽく――って、のじゃ?」
俺は加代の肩を持って止めた。
水着はあかん。
いや、確かに原作でそういうモードがあるのならそれはコスプレかもしれない。
けど、水着はあかんよキミ。
ただでさえ、二次元と三次元の境界があいまいになり、ゆでった頭の男たちがいっぱいの場所なのである。
そんなところで、そんな際どい格好をしたら、えらいこっちゃだ。
「考え直せ加代さん、水着は流石にまずいって」
「のじゃ。そうかのう?」
「もっと違うのにしよう。体の線が出ないよう、露出度控えめに――ねっ?」
「んー、それじゃぁ、メイドモードにするかのう」
メイド!!
それもよくない。
いや、確かに露出度は下がったが、マニアックさは上がった気がする。
そこに加えて、幕張の夏の暑さである。海風と汗がむしむしと吹き付けるその中で、きっと彼女の体は蒸れに蒸れて――。
「いかんいかんいかん!! メニアックフォックス!!」
「のじゃぁ!? メイドもダメなのじゃ!!」
「駄目よダメダメ!! 絶対にダメだわ!! そんな格好して、男たちの視線に晒されるなんて、このアタイ――桜シャーチク・オルタさんが許さないわ!!」
「どんな
加代の暴挙を絶対に止めて見せる。
そう、たとえ人類に影響を与えることがなくっても。
ツルペタスッテンドンでまったく問題なくっても。
俺は加代を止めなくてはいけない。
そのためならば――この身を世界に捧げることもしよう。
抑止の代行者――桜シャーチク・オルタにもなろう。
「とにかく、ダメよ駄目よそんなコスプレ!! このアタイが認めないわ!! だいたい、水着とかメイドとか舐めてんの!! コスプレじゃないでしょう!!」
「のじゃぁ、公式の衣装なのじゃ、文句を言われても」
「もっと露出度の低いのにしなさい!!」
「と、言われても――そうなるとあとは眼鏡スーツ姿しか残ってないのじゃ。いや、アレは公式には、そうかどうかまだ名言されてないから……」
眼鏡スーツ姿ですって!!
そんな、あんた。
オフィスでするような格好。
胸があってもなくても大変なことになるじゃないの。
オフィスなのに仕事しないでいったい何をする気だって言うの。
アダルトな世界よ。
特殊なあれの世界よ。
存在してはいけない世界だわ。
いや、もしやそれが加代さんの固有結界なのかもしれない。
いけないわ。
加代の抑止力として、絶対にそんな惨劇はなんとしても阻止しなければ――。
「ダメよダメダメ!! 女狐上司と秘密の残業――埋まらないエクセル方眼紙――なんてメニアックなDVDみたいなコスプレ!! 絶対に許しません!!」
「のじゃ!! メニアックなDVDってなんなのじゃ!?」
「コミケの大正義になるですって。寝言は寝て言うものよ加代さん。アナタのような胸なし狐では、そんなものどころか書籍化だって難しい――」
「のじゃぁ!! やってみなければ分からないのじゃ!!」
「自分の
かくして、コミケのコスプレ売り子を巡る我が家の聖杯戦争が幕を上げた。
なお勝敗は――魔力補給でうやむやになりました。
深く聞かないでフォックス。
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