第281話 お急ぎプリントアウトで九尾なのじゃ
役職持ちではないけれど、チームリーダーは絶賛兼任中。
そんなだから、客先に出向いてプレゼンなんかをしなくちゃならない時がある。
このビジネス総ITのご時世である。
資料なんてのはPDFで相手先にメールで送っておき、打ち合わせの時にパソコン広げながらお話しする。あるいはプロジェクター使って話をするのが普通だ。
だが、時たまそういうのが通じない、古い会社というのはあったりする。
そういう所は、こっちから商談時にプリントした資料を持って行ったりしなくちゃいけないのだが。
「やっべ、資料印刷するの忘れてた」
と、俺は出先に来てから気が付いた。
幸いなことに時間はある。
昼食を外で取ることにして、早めにオフィスを出たからだ。
そして更に幸いなことに最寄り駅を出てすぐそこにプリント屋があった。
ただし――。
「俺の知ってるプリント屋となんか違う」
コンコーンズ。
記憶が確かなら、最大手のプリント屋は青い看板が目印だったはずだ。名前は似ているが、ここは黄色い看板をかかげている。
そう、まるで狐の毛の色のような黄色い看板を。
大丈夫かな、の前に、あ、また、これいつもの奴かな、と、疑ってしまう。
マジックミラーで中が見えなくなっているのに、怪しさを感じつつも、他に頼る場所もないので仕方なくそこに入ることにした俺。
そこで待ち構えていたのは――。
「いらっしゃいませなのじゃー」
「元気に接客する同居狐の姿が!!」
世界まる見えみたいな感じで、思わずツッコんでしまった。
とどのつまり加代さんが、カウンターに立ってにっこりと俺に微笑んできたのだ。
うん、もうね、分かってたよ。
コンコーンズってあからさまだものね。これで、あ、今回の狐ネタはこれかぁ、って、思わなかったら、そりゃお前何年一緒に暮らしてんだって話になるわ。
「はははっ、ついにプリント業にまで手を広げたか加代さんや。なんでもかんでも手広くやるのはいいけれど、借金だけはマジ勘弁な」
「のじゃぁ。ここはお手伝いで引き受けてるだけなのじゃ。心配せんでも、起業するならするで、その前にちゃんと声かけるのじゃ」
「連帯保証人のか。冗談がきついぜ加代さんよう」
それより、コピーの依頼なのじゃ、と、お仕事モードに切り替える加代。
まぁ、俺も時間がない。
流石にプリント屋で手ひどいヘマはしないだろう。
「何枚か、パワーポイントの資料を印刷したいと思っているんだ。データはUSBメモリに入ってるから接続できるプリンターとかない?」
「ぷりんちゃー?」
おっとぉ。
これはあれだぞ。知らない感じの反応だぞ。
ジョ〇ョ第四部で、トニオさんが、そんなもんないよと言った感じの展開が、それとなく見えて来たぞ。
って、なんでだよ。
ここプリント屋だろ。
プリンター置いてなかったら仕事にならんじゃないか。
「のじゃのじゃ。プリンターなんて時代遅れでエコじゃない装置なのじゃ。これからの時代はもっと、エコでロハスなコピー方法がおすすめなのじゃ」
「また訳の分からんことを言い出しおったぞ、このアホ狐は」
「……ここに三枚の葉っぱがあるじゃろ」
あっ、察し。
なんとなくオチが見えましたわ。
そうですね、化けさせるの得意ですものね、オキツネ様は。
それで葉っぱをプリント用紙に化けさせて――いやぁ、ぼろい商売だなぁ。印刷代がかからない上に、ただの葉っぱが資料になるんだから。
こりゃ儲かるまちがいなし。
わはは。
「コンビニで印刷してくるわ」
「のじゃぁ!? なんでなのじゃ!? コンビニよりこっちの方が、早いし、安いし、オススメなのじゃぁ!?」
うん、そうね。
けど途中で術が切れて、葉っぱにどろんされたら、身も蓋もないよね。
ついでに、データを正確に印刷できるのかとか、そこんところ怪しいよね。
昔話的には、いいところで術が切れてあいたたたって、オチが定石じゃん。
うん。物語のお約束だよね。
お約束が見えてるのに、使える訳ないよね。
「ビジネスシーンで安心して使えるように、実績を出してから出直してフォックス」
「のじゃぁ!!」
結論。
いくら安くて、早くて、オススメでも、安全性に問題のあるサービスは使わない。
できるビジネスマン――桜お兄さんとの約束だよ。
「というか、こういう資料のプリントするより、3Dプリントとか、そっち方面にその能力使った方が儲かるんじゃないの?」
「のじゃぁ。立体造形は、形状を維持するのに気力が必要でしんどいのじゃ」
「うぅん、尚のこと不安」
エコかもしらんが、難儀なシステムよのう。
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