第265話 ババーチューバ―で九尾なのじゃ
「今、巷ではばーちゅーばーというのが流行っているそうなのじゃ」
「チュパカブラの親戚みたいな感じで言ったなお前」
バーチューバ―。
所謂、バーチャルユーチューバーという奴である。
ヒ〇キンやら、マック〇むらいは、もはや昔。
いやまぁ、今でも頑張っているけれども、時代は常に流れている。
そう、昨今は直接人間が出るよりも、バーチャルなポリゴンモデルが出る方が、視聴率もよいし見栄えも良い時代なのである。
実況動画やら、ミクミク〇ンスやら、そういうのがもてはやされていたのだ。
そういうのがウケる素地は既に出来上がっていた。
そういう所に、色んな要素が加わって、今や一大ムーブメントとなっている。
いや、その前にはネットアイドルなんてのもあったりしたけれど。
「で、それが何か?」
「前にお主、ユーチューバーでどうとか、そういう話をしておったであろう?」
「あぁ、あの、バイトリーダー加代ちゃん編第171話のあれね」
「のじゃ!! 世界観が揺れるからそういうメタな発言はやめるのじゃ!! というか、最近ギャグがおざなりなのじゃ!!」
まぁいいじゃないか細かいことは。
それにあれはライオンディレクターから頼まれた、正規のテレビのお仕事だ。
俺は別にユーチューバーをやった覚えはない。
バーチューバ―ならなおさらだ。
俺はプログラムはできてもポリゴンは弄れんのだ。
Direct3DもOpenGLも守備範囲外。
業務で使わないのだから仕方あるまい。
まぁ、なんとなくこの会話の流れから、加代がやろうとしていることは分かった。
分かったけれども、だからどうせえというのだ。
「のじゃ。なんでも、最近は、のじゃのじゃ言う狐耳のばーちゅーばが人気で」
「おっと、それ以上言っちゃいけない。多方面に迷惑がかかるだろう」
「……まぁそれはそれとしてじゃのう。本物の狐娘が中身のばーちゅーばなら、人気爆発間違いなしとみたのじゃ」
「いやお前あれは、いい歳したおっさんがやってるからウケたのであってだな」
「しかし、
がっちり、と、俺の手を握りしめられてこちらを見つめてくる加代。
あぁこりゃ駄目ですわ、逃げられない感じの奴ですわ。
とほほ、と、肩を落とした俺に向かって、頼むのじゃぁ、と、加代は甘ったるい声をかけてきた。
頼むと言われても困る。
こっちだって、そんなポリゴンをガリガリ動かせるようなスキルも、モデリングをする技術も持ち合わせていないのだから。
精々、画像処理で顔面認識するのが関の山――。
「……あぁ、待て、その手があるか」
「のじゃ?」
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃぁ。狐おばあちゃんの、のじゃのじゃ知恵袋。始まりなのじゃぁ」
そう、パソコンの画面の中で呟いたのは、いら〇とやのおばあちゃんの顔が張り付けられた加代さんであった。
顔面認識して、加代の顔に追従して移動する、いら〇とやのおばあちゃんの顔。
うむ、どこからどう見ても、立派なバーチャルユーチューバーである。
満足気に頷く俺。
しかし、加代はしぶい顔をしてそれを見ていた。
「なんか思ってたのと違うのじゃ」
「俺の――いや、人類の技術力ではこれが限界なのじゃ」
時々、加代が横を向いた拍子に、顔面認識が切れて、素顔がポロリするのだが、そこは目を瞑って貰うとしよう。
かくして、配信動画は出来上がった。
出来上がったが、しかし。
「思えば、最初からお前がポリゴンっぽく化けて、動けばそれでよかったのでは?」
「……ぽりゅごんっぽく化けるとか、また難しいことを言うのう」
「ぶっちゃけ、これがウケるとは俺にはまったく思えんのだが」
「……
話も普通。
技術力も普通。
中の人も――九尾だけれど――普通。
こんな普通の要素しかない動画を、いったい誰が見るのだろう。
やめよう。
恥をかくのは現実だけで充分である。
俺と加代は頷くと、自らその動画をゴミ箱へとドラッグアンドドロップ――なかったことにしたのだった。
バーチューバ―は一日にしてならず、で、ある。
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