第244話 年賀状で九尾なのじゃ

 年賀状を出す派か出さない派か。

 昨今の時世を見るに、若い世代は出さない派が多いらしい。


 ちなみに、俺もその出さない派に属しており、親しい友人――といっても、片手に数えられる人数だが――に、メールで挨拶するのがせいぜいである。


 上司やら、親戚やらに、丁寧に挨拶の年賀状を送るのがまっとうなんだろう。

 だがまぁ、面倒臭いのだから仕方がない。

 正月くらい、ゆっくりさせてくれ。


 いや、今の会社は年末年始でもゆっくりしているから、そういうことをする余裕がない訳ではないのだけれど……。


 とにかくだ。

 我が家に年賀状を出すという習慣はなく、例年、ポストを覗けば、何も入っていないというのが、正月のいつもの光景であった。


 それがどうしたことか。

 今年は――分厚い年賀状の束がポストに入っていた。

 しかも元旦から数日遅れて、二週目になってからだ。


 色々と混乱しながらもそれをポストの中から取り出してみると、なるほど、その宛先の名前を見て、そういうことか納得した。

 そこに書かれていたのは――俺の同居人の名前であった。


「おおい加代。お前宛に、大量の年賀状が来ているぞ」


「のじゃ? おぉ、すっかりと、正月疲れを癒すのにかまけて、忘れておったのじゃ」


 流石は俺と違って、昔の人である加代さん。

 しっかりと年賀状は書いているらしい。


 俺から恭しくそれを受け取ると、おぉおぉ、懐かしいのう、久しいのう、元気にしておるかのう、と、その年賀状を炬燵で眺め始めた。

 あぁ、なんか田舎のおばあちゃんとかがよくやっている光景である。


「のじゃ、なんじゃ桜よ。そんなのほほんとした顔をして」


「いや、別に」


 ついつい昔を思い出して、懐かしい気分になってしまった。

 と、そんな加代が見ていた一枚が、ひょいとこっちに飛んでくる――。


 そこには、ハート形にマフラーの帯を結って――と見せかけて、長い首を結ったろくろ首と、一つ目小僧がダブルピースで写っていた。

 下には、今年も私たちラブラブです、の文字。


 うぅん。

 なんだこれ。


「のじゃぁ、ろくろ首と一つ目小僧のカップル、なかなか仲良くやっとるようじゃのう。仲睦まじそうで良いかな良いかな」


「いや、良いかなじゃなくって、なに、これ」


「のじゃ?」


「年賀状なのじゃ?」


「いや、なんでこんな心霊写真みたいな――」


 言って俺は気が付いた。

 そうだな、心霊写真も何も、この目の前の同居人は、そもそも九尾の狐であった。

 そりゃ、年賀状送ってくる知人も、それに類するモノたちになるわ。


 正月そうそう、肝の冷えるもん見たわ。


「のじゃ。新年早々不気味な年賀状を郵便局員さんに見るのは忍びないと、妖怪たちは時期をずらして年賀状を出す風習なのじゃ」


「なにその微妙な気遣い。必要?」


 人間を怖がらせるのが、お前等の仕事みたいなところがあるじゃないのよ。

 どうなんだよ、それって、と、思いながら、俺はその年賀状と入れ替わりにもう一枚、加代宛の年賀状の山から、手紙を一枚引き抜いた。


 加代さんの紹介のおかげで無事に就職できました。

 そう下の方に書かれたプリント用紙タイプの年賀状には、居酒屋のトイレにぶら下がる、一反木綿と思わしき存在がピースをしていた。

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