第241話 深夜番組のお仕事で九尾なのじゃ
「おっすおっす桜くん、お久しぶり。元気にしてたかい?」
「あれ、ライオンディレクター?」
「ご無沙汰しています、桜さん、加代さん」
「アシスタントディレクターさんも」
休日。
家でまったりと、覚めることのない惰眠を加代と一緒にむさぼっていた俺は、突然のチャイムの音に目を覚ました。
アマゾンで頼み物をした覚えはなかった。
しつこい新聞の勧誘かとも思い、居留守を使ったのだが――チャイムがなかなか鳴りやまない。
おまけに隣近所の迷惑も考えず連打してくる。
これはもしや、加代の奴が借金こさえてきたんじゃないのかと、身構えて出てみれば、そこに立っていたのは懐かしい面子であった。
かつて、東南アジアを一緒に回った、テレビ番組のディレクターさんとアシスタントディレクターさんだ。
二人揃って、いったいどうしたというのだろう。
とりあえず知らない間柄でもないので、二人を俺は部屋に上げた。
俺よりも付き合いの長い加代が、二人の登場にのじゃと声を上げる。
すぐに、彼らは寝間着姿の加代の前に膝をついた。
どうやら、用があるのは加代の方らしい。
「いやー、加代ちゃん。久しぶりに番組出てみるつもりない?」
「のじゃ? お仕事なのじゃ?」
「うちでやってる仕事のひな壇アイドルに欠員が出まして。それで、加代さんなら適任かということになって勧誘に来たという次第です」
「のじゃぁ。そういうのはちゃんと事務所を通してして欲しいのじゃぁ」
と、言いつつ、その表情はにやけている。
久しぶりのテレビ仕事に、うかれているという感じだ。
まぁ俺としては、直接交渉しに来たというあたりに何かいやらしい思惑を感じる。
なんと言っても、相手がライオンディレクターである。
彼の食わせ物っぷりは、嫌というほどクアラルンプールで味わされた。
「やめとけ加代。たぶん、お前がやるって言ったのを言質に、無理に事務所に話を通させるつもりだぞ、このおっさん」
「あら、バレてる」
「さすがは桜さんですね」
わからいでか。
なんてったって、ライオンディレクターからは同族の匂いがするからなぁ。
それでなくてもさんざ彼にはめられてきた俺の勘が告げていた。
これはあまり、分の良い話ではない、と。
それでも――。
「のじゃぁ、テレビに出られるなら、
加代が乗り気なのでは、止めれるものも止められない。
二つ返事に出演の確約をした彼女に、はぁ、と、俺は溜息をこぼした。
◇ ◇ ◇ ◇
『さぁ、今週もはじまりました、とびきりグレープ!! 全国ネット、生放送でお送りしております!!』
『先週番組を卒業した、貧乳担当の凛ちゃんに代わって、今週から加代ちゃんが加わってくれました!! わー、ぱちぱちぱち!!』
そう言って、関西で絶大な知名度を誇る某司会芸人と、たわわに実ったデカメロンを揺らす美人アイドルが、番組開始のあいさつをした。
さらに言わせてもらえば、美人アイドルさんは水着である。
冬だというのに水着である。
彼女だけではない。
ひな壇に座っているアイドルたちのほぼ全員が、ビキニの水着に身を包んで、カメラに向かって目線を送っている。
そんな中。
『……のじゃぁ』
胸にでかでかと、貧乳、と、達筆な文字で記載されたスクール水着。
それを着用した加代は、死んだ魚の目をしてカメラに応えた。
『ちょっとちょっと、元気がありませんよ加代ちゃん!!』
『初日からそんなんで大丈夫なのかなぁ?』
そら、前任の子もやめるし、後任に加代にお鉢が回ってきたのも頷けるわ。
そんなことを思いながら、俺はリモコンの録画ボタンに手をかけたのだった。
これは使えるわ。
主に、加代の奴をからかうのに。
しかし、貧乳担当って、直球過ぎるネーミングだなぁ、ほんと。
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