同居狐が仕事先にやってきてちょっかいかけてくる件について編

第230話 再就職で九尾なのじゃ

「いやー、桜がちょうど暇で助かったわ。お前くらいの、フレームワーク組めるほどでもない、けど、そこそこフレームワークに手を入れられる人材が欲しかったのよ」


「褒めてるのか、けなしてるのか」


「褒めてる褒めてる」


 拝啓おふくろ様。


 先週まではいろいろとあったような気がしますが。

 この不肖桜三十とちょっと、ついに再就職に成功しました。


 再就職先は、土建屋からまた変わって、小さなソフトウェアハウス。

 中小企業向けにパッケージソフトの改変・保守なんかをやってる、まぁ、社長のコネで回っているようなそんな会社です。


 前の会社で同期だった社員が、ここに入社したのがきっかけ。

 このご時世、どこも人手不足。


 ただ、ハローワークに登録しても、なかなかこれと言った人材は見つからない。

 それなら友人や元同僚の紹介の方が確実。


 と、まぁ、そんな塩梅で、俺にお鉢が回ってきたという訳である。


「給料は低いけど、その分、前の仕事よりは楽だから。残業もほぼないし」


「そうねぇ。なんかゆるそうだし、そこは期待してるわ」


 ナガト建設を辞めて、すぐに決まったのは正直助かった。

 ぶらぶらしているとあの駄女狐に、何を言われるか分かったものではない。


 まぁ、給料面では確かに不満があるが。


 なぁに、別にこれくらい。

 週末のスロット・競馬に行けなくなるくらいだ。


 健全健全――と、今のところは思っておこう。


「ちなみに昇給制度とかはどうなってんの?」


「同年代の奴に聞いたけど、上がって年千円くらいだって」


 まじかぁ。


 いや、まぁ、楽な仕事なんだから、そこらへんは言うまい。


 IT土方は体が資本。

 長く続けることのが大切だ。


「あとは食事とかどうなってんの? コンビニ?」


「あぁ、それは仕出し弁当取っててさ。経理に言えばまとめて頼んでくれるよ」


「ふぅん」


「ちなみに、今日は俺が頼んどいた。ささやかながら俺からの就職祝いだ」


 そう言って、俺の肩を叩く同期男。

 正直、俺に声をかけてくれたのは嬉しい。


 だが――名前すら憶えていないのが申し訳ない。


 うん、よく声かけてくれたと思うよ。

 ほんと。


 そして、第一声が、誰だっけという俺をよく会社に誘ってくれたと思う。


 まぁ、人間なんにしたって縁だよな。

 そういうのをやっぱり大切にしないと。

 というのは、ナガト建設に居た頃にもしみじみと感じたものだが……。


「こんにちはなのじゃー!! 仕出し弁当なのじゃー!!」


「ただ、こういう縁はちょっと、勘弁して欲しいなぁ」


 どこかで聞いた声がする。

 経理のお姉さんが、扉を開くと、大きなトレーを抱えたきつね色をした制服の女性がフロアの中に入ってきた。


 金色の髪をたなびかせて、微笑むそれは――俺の同居人。


「ご注文の仕出し弁当を持ってきたのじゃぁ」


「おいこらフォックス!! ナチュラルに俺の日常に潜りこんできやがって!!」


「今日は桜の再就職サービスで、ごはんをおいなりさんにしておいたのじゃ!!」


「いらねえ世話だよ!!」


 とまぁ、切りたくても切れない縁はどうしたらいいんでしょうかね。

 同居しといて今更切る気もないですが。


「ひゃっほう!! おいなりさんだぜ!!」


「え、喜んじゃうの、それで……」


 なぜか歓声が沸き起こる新しい職場。

 一抹の不安を感じながらも、転職三回目、俺の新しい社会人生活が幕を上げた。

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