第191話 開拓コジマ島で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 テレビ局のスタジオ建設のコンペに参加することになった桜と加代。

 応対したのは過去いろいろとお世話になっているライオンディレクター。彼からのオファーにより、二人はこの仕事の交渉役として抜擢されたのだ。


 従来のスタジオ建設で世話になっている企業に仕事を任せようとしているテレビ局の上層部たち。しかしながら、実際に使うのは俺たちだと、企画会社のライオンディレクターがそれに待ったをかけた。


 より、利用するタレントたちにとって使勝手の良いスタジオを。

 はたしてその目的を達成するべく、桜はライオンディレクターからそれを証明するための、とある番組企画に参加させられることになったのだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「どきどき、コジマ島開拓計画!!」


 俺たちは絶海の孤島に来ていた。


 あれだな。だいぶ前にも俺、こういう番組に出たことあったな。

 あの時は加代の奴がいろいろと差し入れしてくれて、なんとか乗り切ることができたっけか。いやはや、どうして人間というのは、こう、孤島とか、秘境とか、田舎とか、0円生活とか、そういうのが好きなんだろうか。


「という訳で、これから彼らには、この瀬戸内海に浮かぶ孤島、コジマ島を開拓していってもらうことになります」


「よろしくお願いします!!」


「ふっ、ついに俺たちもレギュラー番組を持つほどに成長できたってことか」


「お茶の間のみんな待たせたな」


「やったね兄貴!!」


「俺、ギター弾けるぜ!!」


 キャストは今を時めく青年アイドルグループだ。

 まだ年端もいかない十代アイドルである。開拓といっても、こんな若さこそあれ筋力の付ききっていない少年たちに、あれよこれよとやらせるのはちょっと酷だ。


 というわけで、どこぞの番組と違って全部自力でやれとは言わない。


「まぁ、さすがに君らにいろいろと全部作ってもらうのは難しいからね。今回の開拓には、ナガト建設の皆さんが協力してくれることになります」


「ナガト建設営業の桜です。どうぞよろしく」


「加代ちゃん現場監督なのじゃ!!」


「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」


 元気のいい声が孤島に響く。

 最近の若いアイドルにしてはしっかりとしている子たちのようだ。


 特にリーダーがいい、なんというか、リーダーらしい感じがしないところがいい。ふつうこの手のアイドルグループのリーダーとなると、カリスマ性を感じさせたり、一癖あったりするものだが、まったくそういう感じがしない。

 三百六十度、どこから見ても普通の男の子という感じだ。

 いや、頑固者という感じではあるが。


 女性ウケはきっと悪いだろうな。本当、よくこんなのがリーダーで、深夜に冠番組を持つところまでこれたものだ。


「君たちに与えられたミッションは、この島をどんどんと開発して、自給自足の生活ができるようになるまで育て上げることです」


「浄水施設まで作らなくてはいけないのか。面倒な話だな」


「あ、衛生面については、さすがにアレなので、こちらで真水とかは用意します。皆さんには、できる範囲で頑張っていただければ」


「なるほど」


 浄水施設作ろうとするアイドルって、それはどうなんだ。


 真面目と評したが、このリーダーという男、なんか頭の螺子が一本どこかに飛んでるようなことを言い出すな。もちろん、周りがすかさず、リーダーそれは考えすぎだよと止めてみせたが、本人は大まじめのようであった。


「というわけで、まずは、皆さんの活動拠点となる建物を作りましょう」


「ふっ、島にただ一つだけの、俺たちの秘密基地か――男心をくすぐるぜ」


「できるだけでかい建物にしようぜ!! 夢は大きく、家も大きく!!」


「僕は個室がほしいな。ほら、着替えとかする時に、その――」


「俺、ギターできるぜ!!」


 勝手なことを言っている。作るのはこっちだというのに。

 だいたい島にある建材だけで、家を作るという制約があるのに、そんなほいほいと大きな建物を作れるわけがないだろう。


 その点、やはり、まともな感性をしているのか、リーダーの男は静かだ。

 山を見つめながら顎に手を当てると、彼はゆっくりと目を閉じた。


 現実的な小屋のイメージを立てているのだろう。


「――子供は二人、それぞれの部屋を用意してあげよう。友達を呼んで遊べるだけの広さを備えたリビングと、ほどよく快適な寝室。あとはそうだな、自主トレーニングをするための、大きな庭がほしいな」


「マイホーム計画立てとる」


 つくるのは拠点だ、お前の終の棲家じゃない。

 なんてマイホーム、いや、マイペースな奴なのか。

 やっぱりまともじゃない。


 なんて固まっている俺の横で、ひょいひょい、と、加代が服の袖を引っ張った。


「のじゃ、桜よ、本当にこれでスタジオの受注が取れるのかのう」


「――なぁに。この子らが快適に過ごせて、その様子がネットで好評になれば、おのずと俺たちに対する評価は上がる。そして、そういうとディレクターが言ってくれれば、上の奴らも見方を変えるだろう」


「のじゃ、なるほど」


「何事も実績だ。そして、実績っていうのは、多くの人たちの信頼の声だ」


 この番組が成功し、そして、ナガト建設の仕事がすばらしい、という話題が立つ。数字という結果を残す。となってしまえば、テレビ局の上層部も無視はできなくなるだろう。

 もちろん、それはこの子たちの頑張り次第というところもあるのだが。


 十分にやってみるだけの価値がある話に違いないのは確かだ。

 問題点があるとするならば、ライオンディレクターにていよく使われたことだろうか。まぁ、そこら辺の金払いについては、信頼と安心がある彼である。


 利益もそこそこに上がるように仕向けてくれるだろう。


「のじゃのじゃ、やっぱり、持つべきものはコネという奴じゃのう。ディレクターさんのおかげで助かったのじゃ」


「まぁ、まだ結果が出てない時点で、そう判断するのは早計だがな」


 そう言いながら、俺はふと島の周囲――向こう岸に人里の見える海へと視線を向けた。波間に降り注ぐ日がまぶしい。まぁ、きっと、悪い企画にはならないだろうよ。


「のじゃ、それにしても、おかしな話もあったものなのじゃ」


「何がだ?」


「コジマジマ開拓なんて、シマシマ言ってて、頭が悪そうなのじゃ。なんで二つも島をつけるつもりになったのか」


「そこはお前、グループ名やリーダーの苗字的に仕方ないことだろうが」


 お前だって、無駄に九本も尻尾持ってるじゃないか、とか、からかってやりたいところだったが、それを言い出すと泥沼になりそうなのでやめておいた。


 コジマ島。うむ、大きいのやらなんなのやら、よう、わからん島だな。


「親の同居も考えて、やはり二階建ての二世帯住宅にするべきではないだろうか」


「まだ言ってるのじゃ」


「世の中には面白い狐も、面白い人間も居たものだなぁ」


 なんとなく、彼らが人気の理由が、ちょっぴりとだけわかったような、そんな気がしないでもなかった。

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