第四章 第二話
夕方になって。
「エイラ」
目を覚ましたサーニャが、肩を落として
「や、やあ」
エイラはぎこちない
「どうしたんだ?」
「最近、どこかにこそこそ行っちゃうでしょう? 何か
「わ、私がサーニャに隠し事なんて、ある訳ないじゃないか!?」
後ろめたさに、視線が泳ぐ。
「……そう?」
(本当のことを言いたい! けど、ちゃんと練習してサーニャの
「あ、あ、あ、そうだ! ちょっと私、用があるから!」
顔を赤くしたエイラは、そそくさとサーニャの前から退散する。
「……」
その後ろ姿を見つめるサーニャの背中は、ちょっと
次にエイラが
今回も
「よし! ばっちりだ!」
現れたのは、
このカードは
「じゃ〜ん」
この前のハープが重すぎたので、とりあえず、軽そうな楽器を持ってきたのだ。
ぷす〜。
「あ、あれ?」
音が出ない。
すぱ〜。
ひょろ〜。
(もっと強くかな?)
ガンッ!
「はうっ!」
思わずのけぞった
ごい〜ん!
「……あうう」
身体を
思わぬ方向から力がかかった食料棚の
ガラガラ、ガッシャ〜ン!
小麦粉の
ウスターソースに、ケチャップ、粉チーズ、レギュラーコーヒー、
ビンが割れ、
「うう〜」
白、黒、赤、黄色、茶色。
全身をカラフルに
ガチャリ。
「ひ、ひぃ〜っ! オバ、オバケ〜っ!」
エイラの姿を見るや、悲鳴を上げて
「せ、せめて
その日以来。
『食糧倉庫にひそむ怪物』という怪談がスオムスの兵士たちの間で語り
「?」
翌朝。
食堂に姿を現したエイラを見て、サーニャは首を
頭にはコブができ、下唇が倍に
「な、何でもないんだ、本当に!」
機先を制し、質問される前にエイラは両手を顔の前で
「でも……」
「そ、そうだ! コーヒー
エイラはサーニャに背を向けると、給湯室に
* * *
そしてまた翌日。
エイラは夜に練習時間をずらすことにした。
サーニャが夜間
「今夜は練習に最高の夜、か」
タロットで運勢を占ったエイラは、カードを片付けながらうんうんとうなずいた。
今回出たカードは『星』。
希望、満足、
最大の困難、を表すこともあるが、そのあたりはやはり無視である。
「今度こそ、今度こそ! サーニャの歌に
と言ってエイラがケースから取り出したのは、
そして、深夜。
サーニャはいつもと同じように、夜間哨戒の任に
夕方までの雪は
風も
ラン、ラララ〜、ラララ〜、ルッラララ〜ラ〜
光の
(……1時方向。ネウロイ?)
サーニャは魔導針の反応があった方角に意識を集中した。
北極星とオリオン三ツ星の中間あたり。
月明かりを浴びて
かつて、ロンドンを
「……サーニャです。ネウロイが1機、基地北西約115kmを東に向かって移動中」
インカムで基地の管制に一報。
隊長が出るまでに、サーニャはネウロイに接近を試みる。
『リトヴャク中尉、聞こえるか?』
隊長の声がインカムから聞こえてくるまで、そう時間はかからなかった。
『こちらのレーダーではネウロイの機影は
ネウロイはレーダーに感知されない高度で、山間を
『足止め、できるか?』
と、隊長。
このままの速度でネウロイが目的地を目指すとすると、迎撃部隊との
かなりの
「
サーニャはセーフティを外し、連発ロケット
だが。
ギュン!
先に
一条のビームがサーニャを
続いて、第二、第三波。
落ち着いてこれを
(大丈夫。接近してくるものに機械的に反応しているだけ)
再度照準にネウロイを
バッ!
バッ!
バッ!
夜空に
しかし。
ギュン!
ネウロイはすべてのロケット弾を回避し、さらに速度を上げる。
「高速型?」
サーニャは唇を真一文字に結ぶと、ネウロイを追った。
一方。
「
発進ユニットに飛び乗りながら、隊長はウィッチたちに命じていた。
「はい!」
飛び立つ準備を進めるウィッチたち。
もっとも、現在飛び立てるのは約半数。
エイラが湖底にストライカーを
そして、その張本人のエイラの姿がここにはない。
「隊長! エイラが……」
ウィッチのひとりが
「少尉が見つかりません!」
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン!」
隊長は発進ユニットに
「構わん! 発進する!」
「
ウィッチたちは
『リトヴャク中尉!
「ネウロイはほぼ南東方向に速度を上げて直進中。工業地帯までの
と、サーニャが報告を続けている
「え?」
方向
(
サーニャはネウロイに
『……待て、サー……合流……ろ……これ……
隊長からの通信は
* * *
振り切られまいと
ネウロイは突然、サーニャの背後につこうと急
(
サーニャは確信する。
不思議と
今回も、最初から狙いはサーニャ自身だったのだ。
(今度は追われる……番……)
ビシュッ!
ビーム発射。
ストライカーユニットの
サーニャの駆るMig60は、
(っ! ……まだ!)
サーニャは波を
2機はそのまま南下し、再び陸上へと達する。
白い
(このままじゃ……)
サーニャは
何とか再び後ろを取りたいが、旋回性能は相手の方が上。
さらに、さっきの一撃で右ストライカーの魔道エンジン出力が低下しつつある。
勝機を
ズギュン!
ネウロイのビームが、今度は
(……みんな!)
ジリジリと追い
すると。
(
「……宮藤さん?」
聞こえてきたのは、
(何やっていますの、サーニャさん! しっかり目をお開けなさい!)
次に聞こえてきたのは、ペリーヌの声。
(あ、えっと……
これはリーネ。
(口に出すまでもないとは思うが、お前の力は高く買っている。……ハルトマンに言うなよ)
と、バルクホルン。
(自分で自分に自信が持てなくても、みんなは信じてるさ、サーニャのことを)
続いて、
(
坂本
(ほら、リラックス、リラックス)
(すっごいすっごい! ナイトウィッチ、かっこいい〜!)
(
ハルトマン、ルッキーニ、それにミーナ中佐。
そして。
(サーニャ……)
エイラのあの
「私はいつだって……ひとりじゃない」
サーニャは180°旋回し、真正面からネウロイと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます