第四章 雪中の笛吹き ──またはサー二ャとエイラのカンタータ
第四章 第一話
サーニャの、サーニャによる、サーニャのための
私は、その
楽器に
凍湖上に設営されたスオムス軍仮設基地の倉庫の
「……これ、何だ?」
「ああ、楽器ですね。軍楽隊や、
そばを通りかかった整備兵が、
「
「……これだ」
エイラの
(楽器をこっそり覚えて、サーニャの歌の伴奏ができるようになる。そうすればサーニャ、きっと
自分が演奏する
「あ、あの?」
「い、いいや、何でもないんだ。……これ、借りていいか〜?」
「どうぞどうぞ。埃を被らせておくより、使ってやった方が楽器たちも喜びますよ」
ここしばらく、積んである楽器に触れたものがいないことを知る整備兵は
「それじゃ
エイラは片っ
「ん〜、どれにしようかな?」
トロンボーン、ヴィオラ、オーボエ、ファゴット、コントラバス……。
中にはバンジョーやダルシマー、シタール、チター、ドブロギター、ハーモニカ、果ては
「なあ、覚えやすいのって、どれだと思う?」
エイラは整備兵を
「さ、さあ?」
特に演奏経験がある訳でもない整備兵は首をひねり、つけ加える。
「確かウィッチの方々の
「……よし!」
エイラはとりあえずヴァイオリンを
サーニャとお
* * *
「上達するまで、バレないようにしないとな」
ヴァイオリンの秘密練習は、ナイトウィッチのサーニャが
他のウィッチたちや整備兵たちが遠巻きにする中、
エイラの音楽的なセンスは
周囲の目には、それなりの期待がこもっている。
しかし。
「それ!」
ぎゅい〜ん、ぴょ〜ん!
引っかけられた反動でエイラの手を
「……あ」
「ぐはっ!」
手にしていたペンキの
運の悪いことに、そこに誰かが連れ込んだらしい太った
ふぎゃあ〜っ!
ペンキを浴びた猫は驚いて走り出し、たまたま近くにいたウィッチの
みぎゃあ! バリバリバリ!
「きゃあ!」
ウィッチは思わず、持っていたストライカー整備用のレンチを投げ出した。
ゴンッ!
レンチは放物線を
「ととっ!」
バランスを
ガゴン!
ガッシャン!
ストライカーユニットを支えていたフックが外れると同時に、エンジンが点火。
ブワン、ブルルルルルルーッ!
「うわああああっ!」
「
「きゃあ!」
無人のストライカーユニットは
どっご〜ん!
ピキッ! ミシミシミシッ!
10km先からも
「ヴァイオリン……なんて
冷や
「まさに音楽界の
凶器は
その場に居合わせた誰もがそう思ったが、それを口にできる者はいなかった。
* * *
「……仮設とはいえ、格納庫は
一時間後。
その足元では、
「いや、これは〜」
姿勢を崩し、頭を
幸い、あれだけの
ベッドで
だから誰も、
「……まあ、サボタージュではないことは分かった。以後気をつけるように」
隊長は
「はっ! 以後は気をつけます!」
エイラはビシッと敬礼すると、野良猫の首根っこをつまみ上げて隊長室を辞した。
しかし……。
* * *
「昨日は実に不幸な事故だったな〜」
多少の失敗で
夜間
「前もって
「そもそも、格納庫で練習したのが間違いだったな。あそこは
サーニャを起こさぬよう、小声で
「……う」
現れたカードの表に描かれているのは、逆さ
『
「練習、明日に回す……いいや!」
「サーニャのため、やるしかないんだ!」
ここなら、
「よいしょっと」
持って来た楽器はグランドハープ。
何となく、
「……こうやるんだっけ?」
だが、ハープの本体は35kg。
慣れない身には、意外と重い。
案の定。
「とととっ!」
エイラはバランスを
そこに、ハープの本体が
びよ〜ん!
ハープの中音域の
「おわっ!」
小さなお
「ぷぷぷぷぷっ!」
顔色が赤に、続いて青に変わった。
動脈が
「だ、
両手で宙をつかみ助けを求めるが、人の出入りが少ないからという理由で練習場所に選んだ食糧倉庫である。
そう都合よく救い主は現れない。
(さ、酸素が……)
エイラは床に座り込むと、右足をハープの柱、左足を
「くくくくくくくっ!」
ネウロイとの戦いでは、決して演じられることのなかった形の
張り
やがて。
プチプチ!
ビ〜ン!
エイラは絡まった髪を引きちぎるようにして、何とか首を抜くことに成功した。
「ぷは〜っ!」
肺を空気が満たす喜びを、エイラは心から
「……ハ……ハ……ハープとは……
それが、生死の境を
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