第三章 空へ…… ──または、望まぬ別離
第三章 第一話
「芳佳ちゃん! 芳佳ちゃん!」
……声。
「芳佳ちゃん!」
私を呼ぶ声。
私……?
「!?」
気がつくと、芳佳は自分の部屋のベッドに横たわっていた。
「芳佳ちゃん! よかった……」
自分の顔をのぞき込んでいたリーネが、
「リーネちゃん、みんな……」
リーネの背後には、仲間たちの姿が。
「私……?」
自分がどうしてここで
みんながどうして心配そうな表情で自分を囲んでいるのか?
芳佳はすぐには分からなかった。
「さっき、
「
と、
「そうだ! あのウォーロックって、なんかおかしい……」
芳佳はガバッと身を起こした。
「ねえ! 今からみんなで調べれば!」
と、言いかけた芳佳は仲間たちの足元に、バッグやトランクが置かれていることに気がついた。
「みんな……それは……?」
「命令で。私たち、みんな今すぐここを出なくちゃいけないの」
リーネが説明する。
「それじゃ、やっぱりウィッチーズは……解散?」
「……うん」
小さく
(私のせいだ……)
芳佳の目から、
「う……ごめんなさい……みんな」
「芳佳ちゃん」
「ごめんなさい……私……私のせいで……私のせいで……!」
「
「芳佳、元気出せ!」
と、ルッキーニも
だが。
「ごめんなさい」
芳佳はそう
「ごめんなさい……」
* * *
荷造りは簡単に済んだ。
もともと、ブリタニアに持ってきた荷物はそう多くはない。
来た時と比べて増えたものといえば、赤城の
芳佳は最後に、父の写真が入った写真立てをスーツケースに収めた。
短い間だったが、自分の部屋。
自分の居場所。
芳佳は無言で別れを告げる。
「行こうか」
そんな芳佳に、坂本が声をかける。
坂本の
「はい」
芳佳はもう一度部屋を
こうして、ウィッチたちはみな、基地を後にしたのだった。
* * *
「え〜、もう出ちゃった!?」
「
と、駅員。
「ろ、六時間!」
駅を見渡すエイラ。
「……ここで待つのかあ〜?」
駅のホームには、ベンチがポツンとひとつだけ。
エイラだけなら、近くのパブで時間を
人見知りするサーニャは、
「まあ、それが
駅員は窓口から身を乗り出し、つい今しがた給水のために停車した列車を指さした。
「あれに乗せてもらうって手もあるな」
蒸気をあげる機関車。
その後部に連なる車両は、客車ではない。
「って、貨物じゃないか〜っ!」
いくらなんでも、貨物車にサーニャを乗せる訳にはいかないだろ!
エイラは
「ハマスミス行きだから、あっちで乗り
駅員はニッと笑った。
「おまけに、切符は
「うう。どうする、サーニャ?」
ただと聞いて、急に心が
「……私、その方がいい。
サーニャは
「!」
(そ、そうか! 貨物なら、サーニャと二人っきりだ!)
「分かった、あれに乗せてもらうよ」
エイラは駅員に告げた。
* * *
「じゃ、これで」
基地から一番近い
「はい、確かに」
サインを終えた書類を受け取った係員は、一礼して去ってゆく。
「ニッキキ〜ン!」
まあ、それに付き合ってしまうシャーリーもシャーリーだが。
二人が帰郷のために乗るのは、シルフィー社のソードフィッシュ。
三座の複葉
「……ロマーニャまで持つのかな、あの飛行機?」
ルッキーニは疑わしげな目をソードフィッシュに向ける。
「何言ってんだよ、その後、あたしは大西洋
魚雷を外し、航続距離を
と、そこに。
「心配は無用ぞ、ウィッチ諸君!」
この飛行場でいつも整備を手伝ってくれる整備士ではない。
「整備の方は
白ヒゲの、リーダー格らしい老人が、自信満々の表情でシャーリーに告げる。
「何しろ、このカールスラント空軍の、
「カ、カ、カ、カールスラント空軍の整備力は世界一ぃぃぃぃぃっ!」
そう
「まあ、カールスラントの名機を用意してやれなんだは、ちぃと残念だがの」
と、もうひとりの小太りの老人。
「カ、カ、カ、カールスラント空軍の複葉機は世界一ぃぃぃぃぃっ!」
またもさっきの老人が吠える。
「ジイサンたちが整備してくれたのかい?」
シャーリーは
このところ
「ジイサンとは失礼な。わしらはまだ
老人は憤慨する。
「なのに、あのマロニーとかいう空軍大将、わしらが義勇兵として戦線復帰の
「おかげでわしら、ここでボランティアじゃ〜」
「そ、そりゃあ……」
「まあ、とにかく、わしらの整備は
「もっとも、武装があればの話じゃあぁぁぁぁ!」
「武装が?」
シャーリーは
魚雷は外したが、7・7mmの
「ここだけの話じゃが……」
小太りの老人がささやく。
「司令部から異例のお達しがあっての。この機体からは、すべての武装を外しておくように、とな」
「やれやれ」
シャーリーは
「底意地の悪いのも、ここまで来るとなあ」
「い〜だ!」
ルッキーニは基地の方を
* * *
基地を出たリーネは、荷物と
家から、
(……あ)
やがて、見えてきたのは、一台のロールスロイス。
この
ロールスロイスはリーネの前で
「お
リーネが乗り込むと、運転手は車を発進させながら言った。
「奥様もお姉様たちも、リーネ様のお帰りを楽しみにしておられますよ。
「ええ」
リーネはクスリと笑う。
「あなたも変わりないようで」
「はい」
リーネが幼い
「リネット様は変わられましたね」
「わ、私が、ですか?」
そんな自覚はまったくなかったリーネは
「はい。以前よりもオドオドしたところがなくなられ、立派になられましたよ」
「か、からかわないで下さい!」
「からかってはおりません。あの泣き虫だったお嬢様が、そう思うと私も
「もう」
ふくれっ
言われてみれば、こんな表情も、以前はあまり人には見せたことがなかったはずだ。
「きっと、いい
運転手は言った。
「……出逢い?」
そう。
リーネはここで出逢った。
かけがえのない仲間たち、そして、親友に。
「はい」
リーネは
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