第二話
1944年8月17日 朝
「あら、ブルーベリー?」
紅茶のお代わりを
「でもどうしてこんなに?」
ザルは全部で三つ。
そこに、さらにもうひとつ、ブルーベリーが山盛りのザルを持ってきた、エプロン姿のリーネが
「私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ」
リーネの実家は、ロンドンではその名を知られた
送られたブルーベリーの量も
今朝、テーブルに出されたのは、そのごくごく、ごく一部である。
「いっただき〜!」
と、ボウル
単に食欲が
「確かに、ブリタニアでは夜間飛行のパイロットがよく食べるという話を聞くな」
そう言ったのはバルクホルンだが、本人はその
「芳佳、シャーリー! ベ〜して、ベ〜!」
ひょこっと顔を出したルッキーニが二人にせがむ。
「え?」
「こう?」
と、言われた通りにする芳佳とシャーリー。
「んべ」
ルッキーニも
「きゃはははははは!」
ブルーベリーを食べて
「……まったく、ありがちなことを」
数粒ほど上品にブルーベリーを食したペリーヌは、真っ白なナプキンで
だが。
「お前はど〜なん、だっ!」
背後から
「ひっ! ひきぃ!」
紫色になった歯が、むき出しになる。
花も
さらに、ちょうどその時。
「ん?」
ペリーヌの前を、坂本が通りかかった。
「……何ごとも、ほどほどにな」
坂本はペリーヌに
「ひ……ひきぃ……」
「ひひひ」
と、エイラのほうは会心の笑みを
「な、何てことなさいまして、エイラさん!!」
「ふふふふ、何てことないって〜」
エイラは意に
昨日、サーニャに意地悪を言ったことへの、ちょっとしたお返しといった心境なのだ。
一方。
「……おいし」
サーニャは意外とブルーベリーが気に入ったようだった。
「さて、朝食も済んだところで」
「お前たちは夜に備えて……
「え……?」
今食べたのは夕食ではなく、朝食。
芳佳は自分の耳を疑った。
* * *
サーニャの部屋は、本日付を
「さっき起きたばっかりなのに」
「何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね」
「暗いのに慣れろってことだろ」
とは、ベッドに寝そべり、タロットカードを並べているエイラ。
「ごめんね、サーニャちゃんの部屋なのに、こんなにしちゃって」
ペンギンのようだが耳と
「別に……いつもと変わらないけど」
サーニャは不思議そうに芳佳を見上げた。
「あ、そうなんだ」
そう言われると、サーニャには暗い部屋が似合ってるような気がする。
「でも。……何かこれ、お札みたい」
外光を
札状の紙には、
「お札〜?」
「オバケとか、
「……私、よく幽霊と
「へえ〜。夜、飛んでるとありそうだよねえ」
「ううん、飛んでなくても言われる。いるのか、いないのか、分からないって」
「あはは……」
そういうことを言うのは
「ツンツンメガネの言うことなんか、気にすんな」
エイラは再び寝転んでカードに目を
「
「タロット?」
芳佳はエイラを見た。
「
エイラは芳佳と
芳佳はそのカードの中から、右上の一枚を手に取る。
「どれどれ……ふ〜ん」
と、カードを見るエイラ。
カードは太陽。
描かれているのは太陽と、ユニコーンにまたがった少女たちなのだが。
この太陽、心なしか、ペリーヌに似ている気が……。
「よかったな、今、一番会いたい人と、もうすぐ会えるって」
エイラは占いの結果を告げた。
「え、そうなの?」
と、表情を明るくした芳佳だが、すぐに視線を落とす。
「……あ。でも、それは無理だよ」
「何で?」
エイラは不思議そうな顔をする。
「だって、私の会いたい人は……」
そう、芳佳の父、宮藤
父の消息を求め、はるばる扶桑から海を
「そっかあ……」
芳佳の口から父のことを聞いたエイラは、
「ん〜、そう言われてもなあ〜」
困ったように
「……あれ?」
8月18日。
明日の日付のところに赤丸がしてあり、何かが書き込まれている。
(この日って……)
サーニャが
だが、芳佳自身にとっても、明日は特別な日。
喜びと悲しみが、同時に
* * *
「夕方だぞ〜、起っきろ〜っ!!」
なかなか寝られなかった芳佳たちが眠りについてから
「……ん?」
目を覚ました芳佳は、
ベッドの上、身を横たえていたのは、お
「あう」
芳佳はようやく、ここがサーニャの部屋兼臨時夜間専従員詰め所だということを思い出す。
(確かルッキーニちゃん、夕方だって言ってたけど……そっか、夕方なんだよね?)
芳佳はエイラとサーニャを
「何か暗いね」
食堂で席に着いた芳佳は、リーネに話しかけていた。
「うん。これも暗い
「これは?」
食後、差し出された見慣れないタイプのお茶。
「マリーゴールドのハーブティーですわ。これも目の働きをよくすると言われてますのよ」
そう
実はこのマリーゴールド、基地内に
「あら、それって民間伝承じゃ……?」
ポロリと口にするリーネ。
リーネの知識では、マリーゴールドの目に効く成分は、経口ではなく、点眼して初めて効果の出るものである。
「失敬な! これはおばあ様の、おばあ様の、そのまたおばあ様から伝わるものでしてよ!」
ペリーヌは
「あう、ごめんなさい」
身を縮ませるリーネ。
こういう場合、往々にして事実を語る者よりも、声の大きい者のほうが勝つものだ。
「
芳佳は
家が
「サンショ?」
リーネはその音に、東洋の
「芳佳、リーネ! も一回ベ〜して、ベ〜!」
またもやひょこっと顔を出したルッキーニが、二人に舌を出させた。
「ベ〜」
「ベ〜」
舌の色に変化なし。
「……う〜、つまんな〜い!」
せっかく、良かれと思って用意したハーブティーなのに、評判は最低。
ペリーヌはず〜んと落ち込む。
「どっちらけ〜」
さらにエイラのとどめの一言。
「べ、別にウケを
きっと
一方。
「……まずい」
サーニャも当然、マリーゴールドはお気に
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