35作目は芥川賞作品

『プールサイド小景』庄野潤三 著 『現代日本文学全集32』より


 選んだ理由:当初は遠藤周作を続けて読むつもりで居たが、テーマの重さに心が折れそうになったので、同じ文学全集にあったこちらにした。


 とても驚いたのは、以前に確か中学か高校時代に何度か読んだことがあるはずの本作品なのに、今読むとあまりにも印象が異なることだ。懐かしさの奥に、全く異なる色彩を垣間見た。

 特に内容が非常に繊細で微妙な夫婦それぞれの心のひだを描き出しているからだろう。銀婚式を経たいまの自分の目には、全く違う作品として映る。


 小説は読者の心の鏡なのだろうか。読み取れることも、感じることも、当時とは全く違う。それが良い悪いではなく、味わいが違うということだ。


 そして改めて、なぜこれが芥川賞受賞となったのか、思い巡らしながら何度も読んだ。言葉の遣い方、選び方、話の展開、それぞれの心情の描き方、言葉の奥底に秘めた人生感。そこには死生観までもが表されていると感じた。


 名作の定義の一つは、やはりこうして、時を経て読んでもなお新たな味わいを得られることだろう。

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