30作目は古典回帰

 読了20161108

『冬の日』梶井基次郎 初出「青空」青空社、1927(昭和2)年2月号、4月号

 約 23P×500字=1万字強


 選んだ理由:昭和の文豪に絶賛された文章にもう一度触れてみたくなったから。


 冒頭から細部に亘り描かれる、病にあるたかしの目に映る生命力溢れる自然の情景は、何度読んでも溜息が出る。

 さりげなく読み飛ばすこともできるほどに読み易いのに、味わい深い。


 例えば、ある冬の日の光景をこう描いている:

「しばらくして彼は、葉が褐色に枯れ落ちている屋根に、の赤い実がつややかにあらわれているのを見ながら、家の門を出た。

 風もない青空に、黄にりきった公孫樹いちょうは、静かに影を畳んで休ろうていた。白い化粧煉瓦を張った長い塀が、いかにも澄んだ冬の空気を映していた。その下を孫をぶった老婆がゆっくりゆっくり歩いて来る。」(三章部分から抜粋)


 籠りがちになっていた堯が久々に家を出ると、目に入る自然豊かな色彩――赤、青、黄、白――と息遣いが迎えてくれる。この数時間前まで夜更けの床で絶望に近付いていた堯は、この時、生への意欲を垣間見たことが伝わってくる。


 もし同じ設定で同じ風景を目の当たりにしたとして、幾人がここまで描けるだろうか。

 伝えたいことを言葉にするだけでなく、読み手にどう伝わるかも意識した言葉選びと筆運び、まだまだ古典から学ぶことは多いと感じた。




 

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