ダ・カーポな語り部。シルバーブルーのアイツ。かわいい女の子ですよ。
考えを巡らせる。そしたら一度気仙沼駅へ向かえばいいだろうか。駅員さんだったら詳しそうだし。
「ええと、そしたらドラッグストアって近くにありますか?」
「どらっぐ、すとあ?」
「あ、薬局です。日焼け止めを買いたくて」
「ごめんなさい。やっぱりよく分からなくって」
なんとなく予想はしていた。
「ここもずいぶん変わって。ごめんなさい、役立たずで。ああでも、薬局……駅前の通りにある小岩さんとこが……でも、今やってたかねえ。コンビニだったら、街道をずうっと行くとあるんですが」
「たしか、駅前の通りとの交差点ですよね」
「小岩さんはね、四五号線をずうっと行くんです」
女将は目を瞑り、頭のなかで地図を描いているみたいだった。
「市役所や郵便局のある道を、ずうっと行くんです。市役所前の信号をまっすぐ行って、その次の信号を、右側に大きい通りがありまして。まっすぐ行くと左にコンビニがあったと思います。大きな建物の一階部分がコンビニで。小岩さんはそこの信号を右手側に、大きい通りがあるんですが、そちらへ曲がってください。それでまたぐうっと行くと、左側、たしか左側だったと思うんですが、ごめんなさい、あちらにはほとんど行かないのでハッキリ覚えてないんです。ただ、左側の道だったと思います。漢方薬の小岩薬局という看板が見えるかと思います」
コンビニのある交差点を右折すると、薬局がある。三ツ葉だったら端的にそれだけを伝えたと思う。女将は何度も何度も繰り返しながら、丁寧に道を教えてくれた。その息づかいから申し訳なさがたくさん滲み出ていた。
「えっと、市役所のある通りをずっとまっすぐ行って、コンビニのある交差点を右に曲がるんですね」
「ええ。そしたら駅のほうへぐうっと行くと、左側、たしか左側だったと思うんですが、ごめんなさい、あちらにはほとんど行かないのでハッキリ覚えてないんです。ただ、左側の道だったと思います。漢方薬の小岩薬局という看板が見えるかと思います」
どうにかして伝えたい、伝えてるけど伝わってるのかわからない。繰り返すのは自分に自信がないからなんだ。
その気持ちが突き刺さるほど感じる。どうしてだろう。たぶんわたしも、同じ悩みを抱えてるからだ。
ブーツを履く。アキレス腱がひりひり痛い。靴擦れを起こしてるみたいだ。薬局へ行ったら絆創膏も買っといたほうがいいかもしれない。消毒液とか。
「もしよろしかったら、自転車がございますから、ぜひ使ってください」
「自転車ですか?」
「はい。ごくごく普通のものですが」
思わぬ提案に心が躍る。自転車。もしかするとこの選択肢が最善な気がする。時間や運行ルートに縛られず、それなりのスピードで、それなりに疲れずに、好きな場所へ行ける。
「あの、借ります!」
渡りに船だ。気仙沼に着いてから、ツキがまわっているように思えてならない。
自転車はシルバーブルーの、いわゆる一般的なママチャリだった。乗ると、膝が軽く曲がる程度の高さだった。適正高さなのかどうかは知らないけど、乗りにくいわけじゃない。
ただ、ハイカットブーツ姿で自転車に乗るのが、すこし恥ずかしい。
「あの、わたし、変じゃありませんか?」
女将に訊いてみた。
自転車カゴにポーチ、紺のワンピースの上に薄い白地の安ショールを羽織り、一昨日買った茶色い帽子をかぶる。自転車向きでも、旅向きでもない。
女将はぱっと目をほそめた。
「かわいい女の子ですよ」
女の子。その一言にかっと耳が熱くなった。
なんか、すごくこそばゆい。そもそも女の子って歳じゃないよ、わたしは。
それと同時に、青春ってこういうもんなのかもしれない。漠然と思った。
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