聖夜のスプリンターと言うくらいだから、サンタが出演します。
そのサンタの位置付けと言うか、設定が現実離れしている。まぁ、ファンタジー小説ですから。でも、ひょっとしたら、作者の描いたようなサンタが世界で暗躍しているかもしれない。
さて、本題は少年と少女の恋愛です。
定石通り、途中は軽くイライラする程度に焦らされます。御約束ですね。
「でも、最後はハッピーエンドだろ?」
これも御約束ですから。ところが、中盤に入ってイキナリ度肝を抜かれるんです。
「ハッピーエンドにならないじゃん」
果たして、ハッピーエンドになるのか、ならないのか。それは読んでのお楽しみ。
RAYさんの作品は幾つも読みましたが、どれも文章が優しく平易で読み易い。無駄な事を書いてないんですな。だから、物語が濃密な割に文字数が少ない。
既に作者の知名度は高そうですが、もし閲覧者の方が知らなかったなら、読んでみて下さい。
大きな大きな絶望があるからこそ、孤独や喪失感のやるせなさがあるからこそ、それがくるりとひっくり返る瞬間にカタルシスと感動がある。
それがありありと描かれた作品です。
中盤で起こる絶望的な事件の後に見える希望。
それに向かって突き進む主人公にどんどんと読まされてしまいます。
でもその先に横たわるもう一つの哀しさに、どこか満たされない気持ちになるのですが、それも......というように、辛い出来事の先に誰にとっても満ち足りた読後感が待っています。
陽太と奈々子の「夢」についても、作品のハートに絡めてよく描かれていました。
SF設定も見事で、それが物語へ絡んでいく様子も絶妙です。
誰もが読めてよかったなと思える作品のはずです。
幼い頃にサンタクロースと出会ったことから、誰かのために力になりたいと思う陽太と、継母からの虐待で心を閉ざしていた奈々子。
小学生の頃、短距離走で出会った二人が友情を育み、やがてそれが淡い恋心となり――。
前半はラブストーリーの王道のような展開を見せ、クリスマスイブの初デートをきっかけに二人の恋がスタートを切る…と思いきや。
クリスマスイブに起きた悲劇をきっかけに、陽太と奈々子の運命の歯車が大きく回り始めます。
その後の展開はこの作者様にしか書けない意外な方向に進んでいき、読者はRAYワールドにすっかり引き込まれてしまいます。
けれども、読み終えた後には陽太や奈々子と一緒に走り抜けたような爽快感とともに、心がじんわりと温かくなるような素敵な余韻に浸れるはず。
寒くなるこれからの季節にぴったりの、珠玉のストーリーです。