一日目――其ノ三

  私の現在の手持ちで、接着力のある物は絆創膏のみ。だから、それでお面を貼付する。

 人は想像することで感情を大きくすると本で読んだことがある。だから、想像させる要素を取り入れる。人は隠れている物を補完するために想像すると本で読んだことがある。だから、一部を隠すことにする。私はお面の真ん中にお札を張り付けた。お札はお面に対して少し大きかったので、目の三分の二ほどが見えるようお札の辺を少し織り込んだ。

 絆創膏をお面の端にくっつける。一枚一枚。

「タララララン~♪ タララララン~♪」

 一瞬、鼓動が乱れる。知り合いからの着信。安堵を得る。

 ベッドの上に立つ。そうすると手は何とか天井に届いた。弾力のある足元は私の動作をおぼつかす。

 背伸びをする。お面を手に取り天井へと持ち上げる。両手でしっかり貼り付ける。接着完了。確認のため、少しだけお面を揺らしてみる。少し緩い。天井を触る。つるつるしている。粘着テープが付着しにくい表面。

 私は悩む。もう少し接着を強固にしたい。私は考えながらベッドを降りようとした。

「がだだだだ」

 私は肩から地面に落ちた。足を踏み外したようだった。意識が曖昧になる。鈍痛を感じる。私はしばらく動けなかった。天井裏へと続く蓋が見える。

 私はゆっくりと腰を上げた。動くたびに膝と腕が痛む。

「ガチャッ」

誰かが外から入って来たようだった。私は念のためベッドの下に身を潜めた。

「ズダッダッダッダ……

複数の足音が私のいる部屋の前を通り過ぎた。

「静ちゃん。居るか? 入るぞ」

「シーズーーー」

扉の向こうから皆の声が聞こえてくる。私は花火を手に取りドアの隙間に目を当てた。誰も視界に映らないが、音衣の部屋の灯りがついている。声はそこから発せられている。私はあいつの部屋を出てそこへ向かった。

「ほかの部屋ってどこよ」

あいつの苛ついた声。あいつの本性。なぜかあいつは焦っていた。

「何もめてるの」

私は悟られぬようにそう言った。首が一斉にこちらを向く。

「シーズー。どこ行ってたの?」

「何かあったの? 大丈夫だった」

皆はそれぞれ口を開く。案じたように。揶揄するように。

「別に何も。ただトイレに行ってたから遅くなっただけ。早く戻りましょ」

隠蔽は疲れを伴う。だから、私はできるだけこの事に触れられないように、悠々と接する。

 私は真っ先に歩き出す。余裕を垣間見せるように。あいつは私の後ろに続いた。背後からあいつの視線が注がれている事を想像すると身震いがする。

「静子。その痣どうしたの?」

急に、あいつは私の横へ並び、肩を指しながら小声でそう言う。

「別に。何も」

私は毅然とした態度でそう答える。

「何かあった?」

「いいえ。何も」

心配するふりをするあいつ。

「大丈夫? 痛む?」

弱みを握ったあいつは時間を空けて何度も嫌味ったらしく聞き寄ってくる。何とも憎たらしい。

「ありがとう。でも大丈夫よ。心配かけて悪いわね」

逆襲は始まっている。だから私は挑発仕返すように嫌味ったらしくそう吐いた。




                   ○


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