Story33 リヴスル脱出作戦~精霊界編~


 「う………う~ん……」


 目を覚ますと、そこは不思議な世界だった。

 ボヤ~ッとしているが、とても幻想的な世界であることは理解できた。


 そこらじゅうを、蛍のような、黄色い光が漂っていて。

 時々、赤や黄色、緑などの少し大きな光があって。


 「ミム!目が覚めたのね」


 聞き覚えのある声の主を見ようと、私は少し目をこすった。


 すると、先ほどとはまるで違う世界が広がっていた。


 さっきぼんやりと見えた蛍のような光の正体は、妖精のような、小さな存在がひらひらと飛んでいる姿を光が反射したものらしい。

 何とも言えない、綺麗な光景だった。


 また、どこからか暖かな光が差し込んでいる。

 結構眩しくて、私はつい目を細めた。

 しかし、決して居心地の悪い、猛暑の日のときのような、ギラギラした光ではない。


 「ここ…は…」


 私は何かにもたれかかっていたようだが、それはどうやら木の根らしい。

 見ると、そこかしこにとても太い根がある。


 「ミム?」


 この世界を注意深く観察していたとき、再び聞き覚えのある声が聞こえた。


 「リ、ピ……ル?」


 「すごい…記憶障害を受けていないなんて、なんという偶然かしら」


 その声の主――リピルは、彼女の名を呼んだ私を見て驚きの表情をしていた。


 〘通常、初めてこの世界に来た者は適応能力がないために一時的な記憶障害が現れることが多いのですが、いやぁ珍しい〙


 リピルの守護精霊ガーディリット・ファールスも首を傾げる。


 「ほら、私、ニズカだから」


 私が今考えられる一番の理由を言うと、リピルとファールスは「そうかもしれない」ととりあえずは納得した。


 ――腕を組み、1人深刻そうな表情をしているリーシェを除いて。



 そんなリーシェに疑問を持っていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにはリピルのおじいさん・フォルサさんとリピルの親友・ミュシアの姿が。


 「ミム殿、ようこそ、『精霊界』へ」


 「え?精霊……?」


 「………ここは精霊界のトップである精霊神様の下で精霊達が暮らす世界。この世界で一番神聖とされている世界樹・アナタルシアに一番近い世界」


 ミュシアが付け加える。


 「精霊界…精霊神…世界樹アナタルシアの存在…また新しい単語が」


 まったく、頭がごっちゃになってくる。


 〘この世界では、私たち精霊は人間界にいるときよりもはるかに能力値が跳ね上がっている。ミム、今の私ならお前をやっつけることなど造作もないんだぞ?〙


 リーシェがニッと笑う。

 先ほどの暗い表情はウソだったかのようだ。


 「…ねぇ、リーシェ。さっき―」


 〘リピル。精霊界をこいつに紹介してやったらどうだい?私ゃちょっくら用があるんでね、行ってくるよ〙


 話を遮られた。それどころかどこかへ行ってしまった。

 もしかして……意図的にはぐらかした?


 「――そうね。ミム、私とミュシアが案内してあげる。一緒に行こ」


 「……行こ」


 リピルとミュシアに誘われてしまったため、それを断ることもできず、


 「う、うん…」


 リーシェの思惑にまんまとはまったような感じがしてならない。

 私は懐疑的な思いをリーシェに抱いたまま、リピルに言われるがままに精霊界を歩き回った。



 「――さて、儂はに会ってくるかの」


 フォルサは、1人精霊界にいる「旧友」に会うために1人で行動していた。



 ~・~・~・



 「ほら、ミム!あれが精霊神様の偶像だよ」


 リピルに腕を引っ張られて、一番最初に案内されたのは、私たちがいたところから近いところにある精霊のおさ・精霊神の像がある公園だった。


 「あの中心にあるのが精霊神の像?」


 「そう!『シェリオ』様っていうのよ」


 「シェリオ…」


 精霊神・シェリオの像は青銅のような金属でできており、その姿は美しかった。


 セミロングの髪、頭にはティアラとヴェールの付いたリング、背中には大きな羽。

 

 舞っている途中を形どったと思われる姿は、それ自身が芸術品のようで、微笑を浮かべているのもその完璧な姿には不可欠であった。


 「すごいね」


 「……シェリオ様は、この精霊界を創ったと言われる神様」


 「なるほど」


 「スピラーは、精霊神様の恩恵を受けている人族のことを言うのよ」


 「精霊神の恩恵を受けていると、精霊を扱うことができるようになるってこと?」


 「う~ん、ちょっと語弊があるけど、ざっくり言うとそんな感じかな」


 〘詳しく言いますと、精霊神様の恩恵を受けた者、すなわち「伝説の大祖先」の血を継ぐ者は、精霊を確実に目視することができ、また契約を結び自らの味方とすることも可能なのです〙


 いつの間にかファールスが出てきて、ちゃっかり説明する。


 「えっと、スピラーになれるのは人族だけ?そのほかの種族は入らないの?」


 〘人族は高等な頭脳を手に入れた代わりにそれ以外の体力や魔力は他の種族と比べて著しく低くなるようできているのです。長耳族は確かに人族と近い存在ではありますが、精霊の力を借りなくとも精霊の用いるような強大な技を行使できるため、精霊を必要としないのですよ〙


 「……他の種族も、精霊の力を借りなくても体力や魔力の面で人族より秀でている。だから、彼らにとって精霊は、ちっぽけな存在に過ぎない。そんなのを頼るのは、人族くらい」


 「なるほど…他の種族は、基本的にステータスがチート級なのね…」


 「でも、人族はその頭脳で他の種族に劣らないほどの道具を発明してきたからね。スピラーでなくても、他の種族と十分やり合える程度の魔道具を開発してきたんだよ」


 ふむふむ。

 どうやらこの世界は、創造主である大女神様とやらによって、どの種族も不当に得をしないよう、能力に差をつけているようだ。

 それは、以前魔族が他種族を襲っていなかったらしいことからも窺える。


 「さぁ、次行きましょう!」


 手を引っ張るリピル。

 しかし、私には一つの疑問が浮かんでいた。


 「…あのさ、リピル。いつまでここにいるつもりなの?」


 「……魔力が回復するまで、かな」


 「魔力?魔力はムルフに回復してもらっていたんじゃ…」


 「ムルフの治療は完全に治すことはできないの。私が未熟なために」


 そっか…しかも、ムルフに治療してもらってる時でさえ、魔力は消費したままなんだよね…


 「そっか。でも、あまりここに長くいすぎると、さすがにリャナーサ達にもバレちゃうんじゃ…」


 「地上界での1分は、精霊界での1時間。どれだけ精霊界に長くいても、地上界ではせいぜい10分くらいの出来事なのよ」


 え、そうなの?


 「それに、精霊神様にも一目お会いしないとだし…」


 ははぁ、聖地巡礼的なアレか。


 「……ミム、あなたも一緒。精霊神様のいる所には、『魔』を治める男神おがみのシガム様もいる。この世界にいる全ての種族が魔法を扱えるのは、シガム様のおかげ。ミムの魔力について、シガム様に相談しに行った方がいい」


 「そうだね、ミュシアの言う通り。大女神様にお会いするのはさすがに無理があるけど、シガム様なら…」


 私がいまいち状況を理解できていないまま、リピルとミュシアは私の手を引っ張って精霊神と「シガム」と呼ばれる神様の元に向かったのであった。

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