Story31 リヴスル脱出作戦⑤


 「……?ミム、ファールス…?」


 正気を取り戻したリピルが、なんでそういう顔をしているの、と言わんばかりに首を傾げる。


 〘お嬢!〙


 「リピル…!よかった…!」


 安堵する私たち。


 「よかった?何が?」


 「…ううん、なんでもない。それよりも、早く脱出作戦を進めようよ」


 「そうね……って、ムルフ?どうしたの?」


 ゴスロリ+眼帯という割と痛い格好をしたヒツジの精霊・ムルフがリピルに治癒能力ヒーリングを施し始めた。


 〘リピル様の体力と魔力は今や残りわずか。早急に治療致します〙


 「え………?あ、ありがとう…?」


 リピルの体全体が淡い緑色のベールのようなものに包まれる。


 しばらくその状態が続いた後、ベールがなくなり、リピルが元気になるときには、日は既に沈んでいた。



 ~・~・~・

 


 「どうしよう…もし脱出を企てるなら今のうちだよ?」


 監視係はまだたままであったため小声でリピルに話しかける。


 「そうだけど…用意周到なリャナーサのことだから、この牢屋自体を結界として、出ていけないようにしているかもしれないわ」


 それを聞き、ファールスの近くにいたウサギの精霊・ティムが口を開く。


 〘……ええ、お嬢様の仰るとおり、この牢屋の外には結界が張られています。しかも、割と強力な〙


 「そうだよね…一つの可能性はついえた、ってことね」


 リピルの髪がやや青くなる。


 「あ、あのさ…結界って、壊すことはできないの?」


 おずおずと訊いてみる。

 それは前から気になっていたことだったからだ。


 「結界を壊すには、結界を張ったときに使われた魔力と同じかあるいはそれ以上の魔力が必要なの。リャナーサの場合は……オッチェル?」


 〘――あー、この結界は大体823、くらいかねぇ〙


 オッチェル、と言われたその精霊は、小さな耳に、大きな鹿のような角を持ち、緑色の髪をした――龍のような少年の姿だった。

 髪を掻きながら、主であるリピルにもタメ語を使っている。


 「……そ。やっぱり、リャナーサは強くなってる…とても」


 目を閉じ、そう答えるリピル。

 その口調には、ほんの少し喜びが入っていたような、いなかったような。


 「でも、この結界を壊すのは、最終手段にした方がよさそうね」


 〘そうですね。お嬢の最上級魔法を行使すれば壊せるかもしれませんが、失う魔力の量はとてつもないものとなります。ただでさえ私たちを召喚して魔力を消費しているのに、そんなリスキーな手を今、使うのは早計でしょう〙


 「そっか…確かに、できることならリピル達にかかる負担は最低限で済ませたいもんね」


 そういえば、リピルは精霊を召喚している間も、一定の魔力を消費しているのか…

 彼女の総魔力は一体どうなっているのだろう…


 「――でも、他にも手は回しているのでしょう?」


 〘ええ、一応。…しかし、まずはお嬢たちの拘束を解くのが先です〙


 「そうね…」


 確かに、私たちは今まで拘束されたままであった。

 この拘束さえ解ければ、多少は希望が見えてくるものだが…


 「リピル、あなたはリャナーサにこの拘束方法を教えたんでしょう?なら、外し方も知っているはず」


 「ええ…でも、私が教えた時よりも魔方陣ニジェラが複雑になってる…追加魔方陣アド・ニジェラもあるし、解析に時間がかかりそう」


 〘…なかなか一筋縄ではいきませんな〙


 近くで絶対拘束の縄バインド・ロープ(と言いつつ、リピルのを見ていると結び目などは存在せず、単なる銀色の輪っかに見える)を見ていたファルスが眉をひそめて言う。


 「ファールスって、解析みたいな頭脳系の技も使えるの?」


 〘……はい、一応は。絶対拘束の縄バインド・ロープの作成には、私も関わっておりますゆえ〙


 「えっ?どこらへんが?」


 〘どこらへん、と申しますと?〙


 脳筋な精霊がこんな精巧なものを作れるはずがないだろう。


 「形と魔方陣はファールスにお願いしてもらってたの。私はその実物に魔力を込めただけ」


 〘いえいえ、形あるものに魔力を注ぎ込むのも結構、がいるんですよ。お嬢の技量も、なかなかのものです〙


 なんか褒め合い大会になってるけど、いやぁファールスは完全な脳筋ではなかったのね~。意外だわ~。


 〘……なんか軽くあしらわれた気がするのですが〙


 「気のせいじゃない?それよりも、制作に携わっているファールスなら、この拘束にどんな工夫が設けられているか分かるんでしょ?」


 いやぁあなたは立派な頭脳系マッチョですよハイ。

 ややジト目でこちらを見るファールスを見ずに、軽く話を逸らす。


 〘…オリジナルの構造なら頭に入っていますが、ここまで改変されたとなると、多少時間がかかります〙


 「そうね…2人で分担して解析しましょう」


 …リャナーサは、こうなることも考慮に入れていたのだろうか。

 そんなことを考えていると、


 「………うぅ……」


 小さな呻き声が聞こえた。

 どうやらミュシアが目覚めたようだ。


 「………ミム………?」


 「ミュシア、よかった!おはよう!」


 「……おは……?今は夜じゃ…」


 そのミュシアの一言を聞いて、周りは凍り付いた。


 外された格子窓から漏れる月光。


 私たちに残された時間は――あと約10時間。


 「……やだなぁ、ジョークだって」


 ジョークの意味も分からないであろうミュシアに、私は力なくツッコんだ。

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