Story29 リヴスル脱出作戦③


 固まる私たち。


 その目に映るのは、獲物を追い込んだ時のような、確信に満ちた顔をしたリャナーサの姿だった。


 〚お前ら、まさかとは思うが……ここから脱走しようなんて愚かなこと、考えてないよなァ??〛


 口では笑いながらも、さっきから殺気がすごい感じられる。



 ――いや、シャレじゃなくて。



 〚この牢屋から脱出することなど絶対に不可能!できるものならやってみるがいい!〛


 リャナーサが右手を上げた瞬間、


 「………!!?」


 気付けば、私は見えない「何か」に両手を拘束され、横たわっていた。

 手足は固定されており、動かそうと思っても動かせない。


 首は何とか動かせるようなので周りを見渡すと、リピル達も同じような目に遭っているようだ。


 「くっ……!!絶対拘束の縄バインド・ロープ…!?リャナーサ、いつの間に……ッ!?」


 「バインド…?」


 「……万物をくくりつける魔族専用の魔力網マージマ、使用者の魔力を減らすことなく相手を拘束できる」


 ミュシアの冷静な解説により理解できた。

 ……って、今はそんなに冷静になる場面ではないと思うんだけど。


 〚ふん、懐かしいね…小さい頃は、お前の絶対拘束の縄バインド・ロープを取得しようと頑張ったもんだよ〛


 ニヤリと片方の口角を上げてそう話すリャナーサ。


 「ということは…この技は、本来リピルが持っていたもの…?」


 リピルに向かって言うと、リピルは力なく頷いた。


 〚まぁ、これで身動きは取れなくなっただろう。警備ももっと増やしてやる。今度こそお前らに逃げ道はねえ、堪忍しやがれ!〛


 リャナーサはそう吐き捨てると、くるりと背を向け、歩き始めたと思うと、すぐ立ち止まり、


 〚…いや、待てよ。どうせ、このまま待ったところでリピルはこちらの加勢をしそうにないし、またいつ脱出をくわだてられるか分かったもんじゃねぇ……〛


 しばし考える仕草をした後、


 〚――あと一日だ〛


 まるで独り言でも言うかのようにポツリと言った後、リャナーサはこちらを振り返り、醜い笑みを浮かべながら衝撃の一言を口にする。





 〚翌日の朝までに、リピルがこちらへの加勢を認めなければ、俺たちはお前たちをリピルともども消す。絶対だ〛





~・~・~・


 (リピル……どうするの?)


 脳内会話でリピルに話しかける。

 リャナーサにそう宣言されて以来、拘束されたまま複数の魔族にばっちり監視されているため、身動きが取れない。


 (そうね…このままだと体をピクリとも動かせない。だけど…)


 かすかに笑みを浮かべるリピルを見つめていると、檻の方から「グァーッ」と変な叫び声が。

 音のした方を向くと、今の今まで監視していたはずの魔族全員が倒れていた。


 「ふふ…魔族は思考回路が単純で脳筋な奴が多いから、消費する魔力も少なくて済むわ」


 セリフに違和感を感じ、もう一度リピルの方を振り向くと、そこにはいつもの姿からは想像できないほどの黒い笑みを浮かべたリピルと、そのリピルに憑りついているかのようにそばについている人魚――リーシェの姿があった。

 さらに見ると、ミュシアとフォルサさんが少しも動かない。


 〘……ミュシアお嬢様とフォルサ様、そして貴女様は念のため結界で護っておりましたが、貴方様以外は「呪い」の力に耐えきれず気絶してしまった模様。私の結界を介してもなお威力が強いのに、貴女様は何故…?〙


 どうやらティムが守ってくれていたらしい。

 それにしても…「呪い」?


 〘お嬢…無理はするなとあれほど…〙


 深くため息をつくファールス。

 っていうか、精霊は魔族には見えていないのか、拘束はされていない。

 ただ、主が拘束されているためか、自由には動けないようだ。


 「どういうこと?」


 〘お嬢は短時間であまりにも多くの精霊を一度に使役させすぎました。――スピラーは、「呪い」系の能力を持つ精霊を持つときは十分に気を付けなければなりません。魔力の残量が少なくなった時に、追加能力で召喚者サモナー本人を「呪い」の状態にさせてしまうことがあるからです〙


 の、呪い…?あの人魚のような精霊が?


 〘リーシェは「呪い」系能力を持つ精霊の中では少々特殊な奴でして。特定の相手の思考を破滅の方向に動かす、強力かつ危険な「呪い」なのです〙


 「つまり、このままじゃ、リピルの身が持たない…」




 〘――うるさいねぇ…〙


 怨念のこもった女の声が聞こえてきた。リーシェの声だった。

 声は透き通ってはいるが、その声色には憎悪の気持ちがこもっている。


 〘…リーシェ。今はお嬢を呪うな。主の破滅は己の破滅を招くぞ〙


 リーシェを何とか諫めようとするファールス。


 〘フン、知ったことか。私は万物の破滅を望んだ誰かの怨念によってできた精霊ものだ。破滅に始まり、破滅に終わる。それはそれは美しいバッドエンドだと思わないか?〙


 さっきリピルがしていた笑顔と同じように笑うリーシェ。

 その笑みを見た私は少し寒気がした。


 〘本来、精霊というものは世界の均衡を願い、またそのために存在しているもの。しかし、「呪い」の能力を持つ精霊というものは普通の精霊に何らかの怨念が入り込むことによって呪いの能力が備わり、また性格も大きく変わってしまいます。リーシェも、かつては今と正反対の性格だったというのに…〙


 〘黙れファールス。さもなくば貴様も呪ってやるぞ〙


 ファールスを睨みつけるリーシェ。

 その表情からして、決して冗談で言ったわけではなさそうだ。


 「その『呪い』の能力って、精霊にも効く…ってこと?」


 〘当たり前だろ。私の魔力を見くびるんじゃない〙


 「ふむ……そういえば、先ほど魔族たちが急に倒れたんだけど、あれって何をしたの?」


 〘――簡単なことだ。魔族たちに呪いをかけ、呪われた者同士が自滅するよう仕向けただけに過ぎない〙


 「自滅…」


 しばらく考えて、私は思った。



 ――見張りを倒してる時点で、この精霊は実は優しいのではないか、と。



 だが、それを口に出すと何をされたか分かったもんじゃないので、黙っておくことにした。


 〘お前……ミム、と言ったな〙


 そんなことを考えていると、リーシェが急に話しかけてきた。


 「??…そう、だけど?」


 〘……なかなか、大したものだな〙


 急に褒められて、私は目をぱちくりさせた。

 意味が分からない。

 どういうことか問おうとファールスの方を向くと、そこにはやや青ざめた顔のファルスがいた。


 〘お、お嬢……本当に、大丈夫なのですか?〙


 「?大丈夫、だと思うけど?なに、今私の身に何か起こってる系な?」


 〘今のお嬢には「衰弱の呪いウィクネサ」がかかっているんですよ!?〙


 うん…?ウィク…?

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