Story23 思わぬ再会


 ――あれから、魔族に包囲され、こちらに勝ち目がない、と判断したファールスは、おとなしく連行されるよう指示した。


 私たちはまとめて牢屋に入れられた。

 手錠がかけられたり、手足を縄で縛られなかったことからして、保留、ということなのだろうか?よく分からない。



 牢屋は、とても広い、という訳ではないが、狭いわけでもない。

 窓は一つしかなく、格子が取り付けられていた。今は朝だからだろうか、日が差し込んでくる。

 また、天井からは裸電球のようなものが吊り下げられている。


 部屋の広さは、ざっと20畳くらいだろうか。なかなか広い。

 日光があまり差し込んでいないため、部屋の隅は暗くなっている。


 牢屋の入口には、太めの格子がたくさん立っている。

 ファールスの見解によると、「これは魔力に強い格子であるため、取り外すには時間がかかる」そう。



 「どうすればいいのかな」


 悩む私とリピル。まさか、故郷が魔族に支配されているとは夢にも思わないよね…


 〘今は、おとなしくしているべきだと思います。私たちに勝機は、今のところ、ありません。現状に何らかの打破が見られるまでは、辛抱あるのみ、なのでは?〙


 ファールスが意見を述べる。

 うん、全くその通りだと思うよ。


 「………リャナーサは、どこにいるのだろうか」


 ポツリとミュシアがこぼす。


 〘おそらく、常人には簡単には手が出せない場所――そうですね、例えば「精霊結界」とか〙


 ファールスがそう言った瞬間、今まで大人しく話を聞いていたリピルが顔を歪める。


 「そんな!精霊結界は精霊神様が護ってくれているはず!魔族がそうやすやすと結界の中に入ることはできないんじゃ……」


 〘ですがお嬢、今は非常にイレギュラーな状況。もしかしたら、本当にもしかすると、あり得るかもしれないのです〙


 顔をしかめて残念そうに言うファールス。


 「あ、あの…『精霊結界』というのは……?」


 こんな雰囲気の中、とてもKYなことを言っているのは承知だが、知らないことはその場で聞いておきたい性分だから仕方ない。


 「ここリヴスルには、精霊が多いことはさっき聞いたよね。それは、ここに精霊神様が時々ここに訪れることがあるからなの」


 リピルが落ち着いた口調で私に説明する。


 「なるほど……精霊神ってことは、精霊をまとめている、親玉のような存在なんだ?」


 「そういうことになるね」


 「はぁ~、なるほど」


 〘そして、リヴスルには、「精霊結界」――ここ地上界と精霊界との境界――の一部が存在しています〙


 「あぁ、つまり、それを護っているのが、」


 〘精霊神様でございます〙


 「そして、ここを占領している魔族のリーダーと思われるのは、昔は優しかったリャナーサ、と」


 一つ一つ確認していく。


 「そして、もしかするとその精霊神が護っている精霊結界でさえ、リャナーサら魔族に占領されている可能性がある、ということね」


 〘ミムお嬢は物事を理解するのが早いですね。――その通りでございます〙


 「あの精霊結界が占領されるなんて……信じたくはないんだけどね」


 リピルが唇を噛む。


 そうか……と少しうつむいた瞬間、牢屋の奥から呻き声のような、何とも言えない音が聞こえてきた。


 「……!?」


 〘何者!?〙


 ミュシアとファールスがいち早く反応し、音のした方向へ、私たちを守るように手前に出て様子を窺った。


 私も何の音か知りたかったため、少し音のした方向を観察してみた。


 すると、牢屋の奥の方に人影が見えた。

 暗いから分かりにくいが、服はリピルやミュシアと同じようにボロボロで、白髪と白いひげが特徴的だ。

 あまり食料には困っていないのか、体は極度にやせ細ってはいない。

 顔は、シワがたくさんあることは分かるのだが、さすがに表情は読み取りにくい。



 ――老人だ。声からして、おじいさんかな。

 さっきの呻き声のようなものは、私たちに向かって話しかけていた声らしい。

 モゴモゴすぎて聞き取れなかったけど!!


 ……よ~く聞いてみると、かろうじて言っていることが聞き取れる。


 「お…お主らも……魔族に、捕らえられたのか……?」


 「………あなたこそ、なぜここに捕らえられているの?」


 ミュシアが問う。


 「わしは、かつてここに住んでいた、ただの老いぼれじゃよ……ある日、家でうたた寝していたら、急に魔族が家のドアを突き破って入ってきてな。理由も知らされずにここに入れられた。――今日で5日目じゃ」


 「えっ?おじいさん、大丈夫なんですか?」


 〘ミム殿!?〙


 つい話しかけてしまう。

 同級生や年下より、年上と話すのが好きだった私がおじいさんに話しかけるのは、そう難しくはなかった。


 「毎日飯はくれるし、味も悪くはない。妻とも死に別れ、子供たちは既に独り立ちし、ずっと孤独な生活を送っていた儂にとっては、家の中も、牢屋の中も、さほど変わらぬ」


 そのおじいさんの声には、諦めも入っていた感じがした。


 「他に、捕らえられた人はいるのですか」


 「いたが、病気や飢餓で皆、死んでもうた。儂以外の者は、儂ほど贅沢な食事を与えられなかったみたいでな」


 「おじいさんにだけ、贅沢な食事を与えられていた……?」


 首を傾げる。

 魔族は、このおじいさんに何か思い入れでもあるのだろうか。


 「……さっきから黙って聞いてたけど……あなた……もしかして……」


 〘!!?……危ないから離れて下さい、お嬢!〙


 リピルが急に前に出ておじいさんに近づき、まじまじと見つめる。

 ファールスの警告も無視して、しばらくおじいさんを見つめてから、納得したように息をつき、おじいさんに優しく話しかける。


 「…あなた、フォルサ、さん?」


 「……?何故、儂の名前を……?」


 それを聞いたリピルが、おもむろに帽子とグラーセを外す。

 薄紫の髪と、オッドアイ。


 そんなことすれば嫌がられるだろう、と思ったが、彼女はレーシュであることを隠そうとしなかった。


 そして、それを見たおじいさんは、目がキラキラしてきたように感じた。


 ――どうやら、泣いているようだ。


 「リ、リピル……?本当に、リピル、なのか………??」


 声を震わせながら、おじいさんがリピルに近づく。


 それを危険と察知したのか、おじいさんをリピルから引き離そうと立ち上がったファールスを、リピルは手で静止した。


 そして、2人は抱き合った。

 リピルも同様に涙を流しながら、一言、ポツリとつぶやいた。



 「お久しぶりです………

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