Story22 論争、のち包囲


 「『リャナーサ』って、一体……?」


 〘リャナーサは、魔族の中でも特にさとかった者です〙


 「過去形?ってことは…」


 〘……はい。お察しの通り、リャナーサはある日を境に、人族を滅ぼすことだけを考える愚か者となってしまいました〙


 「それって……、魔族が急に他種族を襲うようになってしまったことに関係してるの?」


 〘よくご存じで。…どうやらそのようでございます〙


 ファールスが暗い顔になる。


 「で、リャナーサって、豹変する前はどんな人だったの?」


 聞いた直後、魔族に人、というのはおかしいかな、と思ったが、それを気にするそぶりもなく、


 〘それはそれは優しいお方で、ただでさえ気性の荒いのが多い魔族の中では、珍しく優しさを持った人でした〙


 ファールスが遠い目をする。


 「リャナーサは私が小さい時に一緒に遊んでくれたの……そのときのリャナーサ、幸せそうな顔してた…」


 リピルがやや泣きそうな顔で呟く。


 「……リャナーサは、リピルにとっても優しくしてくれた……当時、いじめられてて心身ともに限界だったリピルにとっては、リャナーサはまさに希望の光……だった」


 ミュシアもうつむきながら話す。


 「そっか……」


 暗い雰囲気に押され、私も無言になる。

 しばらくの間、気まずい空気が流れた。


 〘……倒さなくては、なりません〙


 突然、ファールスが覚悟を決めたような顔つきで言った。

 それに即座に反応したリピルの顔には、やめてほしいという、切望の相が感じられた。


 「そ、そんな、リャナーサを、なんで、どうして、」


 混乱し、言葉が途切れ途切れになるリピル。

 そんなリピルに、ファールスがなだめるように話す。


 〘かつてお嬢と遊んでくれた「友達」だとしても、今は我らを襲う「宿敵」に他なりません。そのことは、お嬢も分かっているのでしょう?〙


 「そ……それは………」


 うつむくリピル。

 そんなのはおかまいなしに、ファールスは続ける。


 〘……彼女を正気に戻してあげられればまだ希望はありますが、もちろん悪の記憶がフラッシュバックし、また我らを襲うようになる可能性もゼロではないのです。どうかご理解ください、お嬢〙


 「………」


 リピルはとうとう下を向いたまま黙ってしまった。

 しかし、しばしの沈黙の後、


 「…………もし」


 〘――はい?〙


 「……もし、リャナーサを正気に戻すことが出来たら?」


 〘……お嬢〙


 「答えなさい、ファールス。もし、リャナーサが善の心を取り戻」


 〘…お嬢!!〙


 リピルが、突然のファールスの大声にびくりとする。


 〘…急に大声を出してしまい申し訳ありませんでした。でも、今、我々がやるべきことは、悪の根源・リャナーサの退治ではないでしょうか〙


 さっきの怒気はどこへやら、また冷静になって話し出すファールス。


 「……退治、と言わないで。『解放』、と言ってあげて」


 全てを諦めたかのように、ため息をつきながら答えるリピル。


 ……確かに、いじめられてたときに助け船を出してくれた人を殺すだなんて、簡単にはできないよね……


 と同情していると、ミュシアが私の腰をつっついた。


 我に返ると―――



 「あ、あの、お取込み中悪いんだけど、リャナーサっていう魔族を生かすにしろ倒すにしろ、作戦ってもんが必要なんだけど―――考えられそうもないね」


 私の一言にハッとしたリピルとファールスは、ようやく自分たちが置かれている状況を理解した。


 「あいつらは馬鹿なのか?」


 「自ら我ら魔族の拠点に迷い込むとは、まさに飛んで火にいる夏の虫、というもの」


 「今となっては我ら魔族を止めることは、いくら大女神であろうとできまい」


 私たちを見つめるたくさんの視線、そしてひそひそと聞こえてくる声。

 それは、決して興味本位からの集まりではなくて。






 ――そう、私たちは入り口で無駄話をしているうちに、魔族に取り囲まれてしまったのだ。

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