Story6 芸達者


 ――何が起こっているのだろう。


 今、目の前のサルが、しゃべったような……?


 いやいや、気のせいだろう。サルがしゃべるワケがない。


 ……いや待て。ここは異世界、何が起こってもおかしくはないな…


 【……こっちを見て何をずっと考えてるの?君、面白い子だね】


 ハピィがほほ笑みながらこちらを見て言った。


 私はハッとした。

 気付いたら、私はこのサルをまじまじと見たまま、深く考え込んでしまったらしい。


 「……ご、ごめん、私、考え始めると周りが見えなくなっちゃうから」


 【別にいいけど、この世界ではその行為は危険だよ。家の中とかの安全な場所ならともかく、魔物が出るようなところでそんなことするなんて、自分から「殺してください」って言ってるようなものだよ】


 「そ、そうだよね…」


 【……ま、作戦とかをそうやって慎重に考えることはとても大事だと思うけど。うちのルーはそんなこと絶対にしないから。…こりゃ、君たち、意外といいコンビになるかもね】


 少し二ヤつきながら言うハピィ。

 「ルー」とは、多分ルキのことであろう。


 ……それにしても「いいコンビ」だなんて、こっちからしたら迷惑でしかないけどね。


 「……相当な凸凹コンビになるでしょうね」


 皮肉交じりにそういった私に、ハピィはクスッ、と笑った。


 【君、本当に面白い子だね。ルーとは大違いだ】


 「……そう?」


 【……それに、君は、他の人とは違う、何か特別な力を秘めているみたいだ】


 「特別な…力?」


 そりゃ、私は別の世界から来たニズカだから、この世界の他の人とは違うだろうけど。


 【………それよりもさぁ、ボクって意外と芸ができるんだよねぇ】


 うわ、めっちゃあからさまに話をそらしたな今。


 そう思っていると、ハピィがヒョイっ、と逆立ちをしてみせた。


 【こんなこともできちゃうんだから!】


 そう言って、ヨッ、とどこから取り出したのか丸いボールのようなものを逆立ちしたまま足で転がし始めた。


 【どう?どう?すごいでしょ~】


 自慢気に言うハピィ。


 「…なんていうか……猿使いなしで猿回しを見てる気分…」


 【…何を言っているのかよく分からないけど、遠回しに馬鹿にされているような気がする!?】


 ガーン、という効果音が聞こえてきそうなほど落ち込み固まったハピィは、さっきまで足で転がしていたボールを落としてしまった。


 「……そのボールみたいなのは何?」


 【…これかい?これは封魔の石リマジカスといってね、ボクら魔族の持つ特有な魔力を下げるための石のことさ】


 「魔力を……下げる?」


 【そう。そのままだと、ボクの魔力は周りに影響を及ぼしかねないからね。――この世界では、全ての種族が魔力を持っていて、魔法を使うことが出来るんだ。そして、魔物、すなわち魔族というものは、他の種族とは違い常に自分の体の周りに魔力をまとわせていて、いついかなる時に危険が迫ろうとも、魔力でどうにかできるようにできているのさ】


 「どうにか…って?」


 【例えば、何らかの争いがあって命の危機に陥った時。体の周りに漂っている様々な魔力の中から「生命維持」に関する魔力が発動、何とか事なきを得る、なんてことができちゃうんだ】


 「……何それチートじゃん」


 【チー…?……と、とりあえず、魔族は危険と隣り合わせな種族なんだ。他の種族と比べ、意思の疎通が図りにくいために、日々争いが絶えない。そんな魔族に大女神様が特別に授けて下さったのが、この力なのさ。ただし、これが発動するのはあくまで「同族内での争い」の時のみ。まさか、魔族が他の種族を襲うとはさすがの大女神様も考えていなかったんだろうね】


 ……なるほど。

 種族の共存のことも、大女神様はちゃんと考えていたんだな。

 誤算はあったみたいだけど。


 【……そして、瀕死だったボクを救ってくれた恩人――ルーは、人族たちと共に暮らすことが出来るように、と、この石を作ってくれたんだ】


 「作った……って、まさか手作りで?」


 【うん……彼は、ああ見えても「物作りの魔術師クラ―フマージスト」の資格を持っていてね。――この世界でその資格を持つ者は5%にも満たないんだ】


 「……!」


 えっ、あのヒョロくて超絶チャラそうなあいつが?

 職人なの??しかも超希少な??


 【これは、まだルーが物作りの魔術師クラーフマージストになってからまだ間もないときに、慣れない手つきで、でもボクのために一生懸命魔石マジカスを原石から削って、彫って、それはそれは丁寧に作ってくれたんだ……。だから、これはボクの一生の宝物なんだ……まぁ、ボク、死ぬことはないんだけど】


 そう言って苦笑するハピィ。


 「…死なない?」


 【……うん。アーミンモンクの家系は、不老不死で有名な種族なんだ。……でも、不死、と言っても、瀕死の状態にはなる。もしあのままルーに助けられなかったら、あの崖でボクは永遠の時を瀕死のまま、過ごしていただろうね】


 「……あれ、でもあなた、治癒能力ヒーリングの能力を持っていたんじゃなくて?」


 【他にも同じ目に遭っていた仲間を助けていたら、自分を治す分の魔力がなくなっちゃって。この世界では、休んで回復するのは体力だけ。つまり、魔力の回復はアイテムで、ってことさ】


 うわ、やっぱりRPGだ。

 自分でアイテムを見つけないと回復はできないのか…


 「……この世界についてのことがだんだん分かってきた気がする」


 【そうかい、それは良かった。……ところで、この世界では「自分のステータスを確認できる」というのを知っているかい?】


 「え」


 あ、この世界でもやっぱりあるの?

 あの、よくラノベとかでお決まりの「ステータス」って…


 ……まぁ、私はハピィに言われるまで存在を完全に忘れてたけど。


 「え、あ、そうなの?」


 【もちろん。この世界ではステータスが全て。自分の今の実力を確かめることもできるし、今持っているアイテムなどを亜空間に送り込み、それを確認・取り出しすることもできる。今やステータスの設置は、世界中で義務化されているほどなんだ】


 そう言ってバチコーンと大きくウインクをするハピィ。

 そして、手に入れたアイテムが出たり消えたりする疑問も解消された。


 「そうなのか…じゃ、確認してみましょうかね…」


 私は、ステータスを呼び出そうとした。


 しかし。


 何度やってもステータスは立ち上がるそぶりを見せない。


 【あれぇ?おっかしいなぁ…「ステータス」、って言えばいいだけなのに】


 さすがのハピィも首を傾げる。


 その後何回もステータスを呼び出したが、全く出なかった。


 【……これは、「強制召喚フォーサモン」をしなくちゃならないようだね…】


 ハピィの目が怪しく光る。



 …え?な、何なの?な、何が始まるの??


 何も状況を理解できないまま、私の視界は光によって白く覆われた。


~・~・~・


 ――なんだこれは。


 ボクは今まで見たことのないレベルに開いた口が塞がらないでいた。





 ミム・タチバナ

 Mimu Tachibana


 Job:学生

    Student

 Age:16


 Level:50   ←←←←←←←ピッピッピッ

 Magic:Not yet


 HP:-74

 MP:0


 Skill:Not yet





 ――レベル50。



 ……これじゃ、救いようがない。なさすぎる。


 この世界で一番弱い雑魚敵・ジュエトルの攻撃でさえ、この子にとっては致命的だというのか。




 ――まさか、レベルがマイナスだとは。


 生きているのが奇跡レベルだ…


 ボクは、彼女のステータスを見て、やれやれと首を振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料