Story4 絶望のち提案


 「――いいか、まずはこの世界の説明から始める」


 そう言ってルキは、持ってきた机の上に大きな地図を広げ始めた。


 「……それが、この世界の地図なんですか?」


 こんな男と口をきく気など毛頭ないのだが、今は特別だ。

 質問したいことは山ほどあるからだ。


 「そうだが……お前、一体どこから来たんだ?セイフルゾークから来たんなら、その無知さも納得がいくのだが」


 「……分からないです」


 「分からない?それはどういうことだ?」


 「気付いたら、ここに来ていたんです」


 「ふむ…『気付いたら、ここに』…か」


 ルキはしばらく考えた後に、私にこう言った。



 「――お前、『』だな」



 ……は?


 「に、ニズカ…?」


 「俺たちのいる世界には、空間の『ゆがみ』が生じているところが多少あってな。たまに、そこから別の世界から来たやつが迷い込むことがあるんだよ。ここではそいつらのことを総称して『ニズカ』、と言っている」


 「……と、いうことは……私は……」


 「…ああ、お前からすればこの世界は『異世界』と呼ばれるものだろうな」





 ――異世界。


 よく、ネットでは「異世界行ってみた」とかいう話を聞くが、まさか私もその当事者だというのか。


 確かに、ここが異世界だとすれば、さっきの意味不明な国名、魔物の存在、全てが繋がる。



 ここは地球じゃないのか。別の世界なのか。


 ――いくら世界中を歩き回ろうと、私の家族には、絶対に会えないのか。


 あまりの絶望感にうなだれた私に、ルキが声をかける。


 「……まぁ、その見たことない服からして、もしやとは思っていたが、お前と話をしてよく分かった。――お前は、こちらからすれば『異世界から飛ばされし存在』なんだ」


 「………そうですか」


 「……?反応が薄いな。言っておくが、これは喜ばしい事なんだぜ?ニズカは、別の世界から来た存在。すなわち、この世界にはない、独自の文化を持っている可能性の高い存在。だから、多くの国でニズカは歓迎されるんだ」


 「……でも…」


 「もっと自信を持っていいんだぞ。少なくともお前は、この世界では特別な存在なんだから」


 「……でも!!!」


 急に大声を上げた私に、ルキがビクッと反応する。


 「……私からすれば、異世界に飛ばされることは、家族と二度と会えなくなること…」


 ハッとするルキ。


 「これ以上に辛いことってありますか?いくらこの世界で私の存在が優遇されようと、そんなのなぐさめにもならない」


 ルキの視線が泳ぎ、たじろぐ。


 「い、いや、それは、そうだけど、」


 「頼れるものが何もない世界で、私はこれからどうやって生きていけばいいんですか?ねえ??」


 怒りに震える私を見て少し目を見開いたルキは、思わずうつむいた。

 でも、感情が止まらない。怒りがどんどん湧き出ては口から暴言となって出ていく。


 「あなたはここで生まれたから頼れる人がたくさんいるでしょうけど、異世界から来た私には、そんな人がいない……他人しかいない世界じゃ、誰にも頼れず、そのまま野垂れ死ぬしかない」


 さすがにこんなこと言ったら、彼が傷ついてしまうかもしれない。

 でも、今の私に、そんな感情のコントロールは効かなかった。


 「どうすれば、いいんですか……ねえ………」


 ――思いの丈を打ち明けた後には、虚無感しか残っていなかった。


 私が何も言わなくなってから、しばらくうつむいていたルキは、ゆっくり顔を上げ、ある「提案」をした。





 「――俺と一緒に、旅に出ないか?」

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