異世界行ったらレベルがマイナスだった件について

蓬茨あんず

Prologue ―現実世界との別れ―


 「1月でただでさえ寒いのに、今日は一段と寒いよね。ってことで、、早急に頼むわ」


 慣れた口調でバーのマスターに話しかけるその少女。名を、立花たちばな美夢みむといった。


 現在高校1年生(16歳)、趣味は主にネットとゲーム。これがないと生きていけない、典型的な現代っ子だ。

 またラノベも好むが、彼女は気まぐれであるため、ハマるジャンルに幅がある。

 その中で一番好きなのが異世界もので、しかしまだ読み始めたばっかりで知識は浅い。


 人づきあいに関しては、苦手ではないが面倒くさい、と思っている。できることなら付き合わないほうが気が楽だからだ。


 クラスではあまり目立たないようにふるまいには気を付けているが、クラスメートからはマスコットキャラ的存在にさせられてしまっている。


 ちょっとルーズなポニテ、少し低めの身長(155cm)、そしてほぼ無表情。

 普通なら他人は気にも止めない、しかも無表情であることはむしろ陰口を叩かれそうな特徴だが、彼女のたまに見せる「笑顔」には、万人を惹きつける"何か"があった。


 つまり、笑顔がかわいいというだけで、クラスメート(主に女子)から可愛がられてしまっているのである。


 髪を結ぶのが面倒くさいからと適当に結んだ髪は「敢えてルーズに結んでいる」と、また無表情なのは「クールだから」といい意味で勘違いされている。

 身長が低いのも相まって、皆からいつも可愛がられるのだ。


 人と接することをあまり得意としない美夢からすれば、それは正直ありがた迷惑な話であった。

 しかし、だからといってクラスメート達からの好意を受け取らないわけにはいかないため、その場しのぎの「愛想笑い」が癖になってしまった。


 ……もっとも、それが彼女が「おしとやか」と周りから勘違いされ、皆からさらに可愛がられる一因となっているのだが。



 ――最近、美夢は心から笑うことが極端に少なくなったことに気付いた。


 家には双子の弟がおり、現在小学4年生、うるさい盛りである。

 静かな環境を好む美夢にとっては家の中は居心地がいいとはとても言えなかった。

 本来の自分でいられるはずの自分の家の中でさえ、彼女は「本当の笑顔」を忘れつつあった。



 そういうこともあり、彼女は最近、学校から帰ったときはいつも近所にあるひっそりとしたバー・『かくれが』にて一人でミルクをたしなむ。ミルクなのは、未成年で、もちろん酒が飲めないからだ。しかし、このミルクがまた美味しい。

 ちなみにバーといっても、子供を連れた親子も大丈夫なバーなのでJKの美夢が来ても何の問題もない。

 …といっても、バーの場所がひっそりしすぎてほとんど大人しか来ないが。


 このバーのマスターは美夢の叔父であり、親戚のよしみで美夢の頼むミルクは特別に無料で提供してもらっている。


 このバーではミルクを飲むだけでなく、ゲームをしたり小説を読んだり、学校での演技は一切なく、ありのままの美夢でいられた。


 そしてそこは、美夢にとって、家の中以上に安心できる場所だった。


~・~・~・


 さて、そんな唯一といってもいい安心できる場所であるバーでミルクのおかわりをもらおうとした時、"それ"は起こった。


 「マスター、ミルクもう1杯………」


 その一言を言い終えるや否や、美夢は何とも言えない強い睡魔に襲われた。

 ひどく歪む視界。頭がクラクラする。

 美夢は何もすることができず、そのままカウンターテーブルに突っ伏しまぶたを閉じた。


 ――真っ暗な世界。いったい何が起こったのだろう。

 それを考える暇もなく、美夢の意識は遠ざかっていった……

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