第二話 -3

 さて、そんな感じで始まった俺の新生活。

 ここらで我が陸上戦略自衛隊習志野駐屯地での一日の流れを紹介しておこう。


 自衛隊員の朝は、午前六時の起床ラッパから始まる。

 駐屯地内にある隊舎は基本的には二人一組の相室だが、俺の向かいのベッドは空いていた。

 十五分以内に廊下へ整列。

 寮長から日朝点呼が申し渡され、小隊ごとに全員揃っているかの確認をする……のだが、昨日から隣室となった同僚隊員の姿が見えなかった。

「あれ、美咲一尉と戸代二曹は?」

 俺が首を捻ると、鬼軍曹もかくやという寮長殿の強面が忌々しげにひしゃげて、

「……あの二人はいいんだ。貴様は自分のことだけに集中しとけ!」

 は、判りました! と寮長に返答する。むぅ、さすがは階級社会。一尉や二曹ともなると、寝坊も赦されるらしい。俺もとっとと階級を上げたいものだ。

 日朝点呼を終えると、十五分ほどラジオ体操と早朝訓練で汗を流す。

 朝食は六時半から大食堂で。

 その後、細かい身支度を整えた後、運動場に集合して八時ちょうどに国旗掲揚。学校で言うところのいわゆる全校朝礼であり、同時に一日の業務開始の合図でもある。

 君が代のラッパに合わせてするすると天に登る日の丸国旗。俺は国旗に敬礼しつつ、やはりあの二人の姿が見えないことに首をかしげる。

 その後、小隊室に赴いての初任務が、

「吉良瀬川ッ! あのネボスケどもを起こして来い!」

 怒り心頭の獅子堂副隊に蹴っ飛ばされて、こうして自室のお隣の扉まで舞い戻ってきたのだった。

「…………、さすがにもう起きてるんじゃないか?」

 時計を見ると、すでに八時半をとうに過ぎている。正常な自衛隊員なら、否、社会人なら誰しも起きている時間帯だ。

 とりあえずノックを二回するが、予想通り返答はない。

 始業時間にも来ないでどこに行ったんだか……と試しにノブを回してみると、鍵はかかっていなかった。

 ……ふむ。ちょっとだけ中の様子を見てみるか。

 俺はそっとノブを引いてみた。

「失礼しまーす……って、まだ寝てる?」

 俺の部屋とまったく同じ間取りの最奥、朝日の差し込む窓際に、うわ、なんでこんなん営舎にあると? と博多弁で疑いたくなるようなドデカいダブルベッドの上にくんずほずれつの寝相よろしく、二つのパジャマ姿がごちゃごちゃっと寄り添うようにして未だに爆睡していた。

 もちろん、はだけた二つのパジャマの中に収まっている人間様は、当の本人様で間違いないわけで。

「っつーか、下着とかいろいろなものが丸見えなんですけどッ!」

 と、思わず突っ込み声を上げたのがマズかった。

「んぁ……?」

 とオヤクソクのようにようやく目覚めた部屋主一号、じゃなくて美咲一尉が寝惚け眼で俺の姿を視認し、次に自身のパジャマん中に手ェ突っ込んで未だ爆睡中の幸せそうな恋子二号、じゃなかった恋子二曹の顔を視認し、最後に自分のあられもない姿が侵入者に凝視されているコトを認識した上で、

「う……うわああ! 何見てんだ変態野郎おおおお!」

 枕の下から取り出した大型自動拳銃デザートイーグル50AEで連射されたのは、後で聴いたら駐屯地中の伝説になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る