第4話 怪傑ゾロがいる限り、この世に「悪」は栄えない

ドン・ディエゴこと怪傑ゾロの屋敷へと向かう事にしたエクス一行。

彼らがシンデレラの想区と怪傑ゾロの想区をつなぐ次元の裂け目を通り抜けると

ヴィラン達が立ちふさがっていた。


「邪魔をするな!」


エクスが叫ぶ。

シンデレラの身内に危害を加えて彼女を怖がらせたことに対して、まだ怒っているようだ。普段からは考えられない位荒々しい剣さばきでヴィランを斬っていく。彼らのガードを無理矢理こじ開け、がら空きになった胴体を掻っ捌いていく。

他の三人もそれに引っ張られる形でいつも以上に奮闘する。ヴィランの数はあっという間に減っていき、10分もかからずに全滅した。


「急ごう。日も落ちてきたし」


既に太陽は地平線へと沈みかけている頃だった。

一行は屋敷へと急ぐ。




ドン・ディエゴの屋敷にたどり着いたころにはすでに日も落ち、

満月と星が空に昇っていた。


「奴はどこだ!?」


「ハハハハハ!」


怪傑ゾロを探す一行の前に月夜を背景に屋敷の屋上から何者かの笑い声が聞こえる。


「天知る、地知る、ゾロが知る! 怪傑ゾロがいる限り、この世に悪は栄えない!」


そう叫びながらゾロは屋上から飛び降り、エクス達の前へと姿を現した。


「ずいぶんとまぁ御大層な登場じゃねえか怪傑ゾロ……いや、カオステラー!」


タオが至極不満げにゾロにぶちまける。


「カオステラー……その言葉をご存知でしたら隠す必要はございませんね。

 私はあのお方に出会って力を授かったのですよ。想区を飛び越える力を」


ゾロは続ける。


「この世は悪にあふれてる。それを裁くための正義が必要なのだよ」


「物語を書き換える行為もれっきとした悪よ!」


正義が要ると語るゾロをレイナはそうはっきりと言って断罪する。


「弱きを助け、強きを挫くことが悪いことだというのかね? 人を救う力を持っておきながら黙って指をくわえて見てろ。とでもいうのか? お前たちは人を救ってはいけないとでも言いたいのかね? それが……正義の味方のやる事かね?」


「テメェ! 気安く正義を語るんじゃねぇ! お前が余計にしゃしゃり出るせいで死ななくて済んだ奴が死ぬかもしれないんだぞ!?」


タオが桃太郎を死なせてしまったトラウマを思い出し、怒りをあらわにする。


「それはあなたたちも同じじゃないですか? あなたたちこそ気安く正義を語らないでほしいですなぁ。まぁいい。正義の味方の邪魔をするというのならあなたたちは悪の手先ですね。退治して差し上げましょう」


そう言って合図を送ると虚空からヴィランが現れる。細身の体に頭には羽根ぼうしをかぶり黒いレイピアを持った今までにないタイプのヴィランが襲い掛かってくる!

エクス、タオ、レイナが前線で戦い、シェインが後方からサポートする。見た目にたがわず多少は剣術をわきまえているせいか予想以上に抵抗は激しい。

剣さばきに無駄な動きは見られず、一太刀一太刀の一撃も鋭い。剣士ヴィランと戦っている最中に、タオはあることに気付く。


「オイ、気をつけろ。ゾロがいない!」


タオが気付いた瞬間、闇夜からゾロがシェイン目がけて空中から急襲する!


「これが私からのメッセージです」


そう言ってゾロはシェインに身体からはみ出るほど大きなZの文字を深々と刻み込んだ。


「うっ……」


重傷を受けたシェインは倒れる。


「シェイン!」

「遠くから狙ってくるのは厄介なので先に叩かせていただきましたよ」


そう言って再び跳躍し闇夜に身をひそめる。




「クソッ! 奴はどこだ!?」


月が出ているとはいえ人が隠れるには十分すぎるほど辺りは暗い。


「タオ、レイナ、僕に作戦がある」

「エクス?」


エクスは魔導書のヒーローに姿を変える。そして……


「おいゾロ! お前がどれだけ強いか知らないけど僕ほどではあるまい! 悔しかったら隠れてないで堂々と出てきて戦え! 正義の味方の分際でコソコソ隠れて不意打ちなんて卑怯だぞ! それがヒーローのやる事か!?」


彼は闇夜に向かって彼らしくない言葉を叫ぶ。これは挑発だ。

叫び声が闇夜に消えてしばし……黒い影がエクス目がけて飛び下りてくる!


(勝った!)


エクスは魔導書を力強く握りしめる。

再び空から急襲したゾロはエクスの身体にZの文字を刻みこんだ。


「待ってた……この時を!」


エクスは重傷を負ったものの残った力でゾロの腕をつかみ、魔道書を持つ手でゾロに魔法をかける。


「うっ! こ、これは!」


急激に身体がズシリと重くなり動きが鈍くなるのをゾロは感じた。エクスがゾロにかけた魔法はスピードを遅くするものだった。


「あとは任せた……」


そう言うとエクスはがくりと膝から崩れ落ち、倒れた。




レイナは片手剣のヒーローに姿を変え、ゾロに襲い掛かる。これはエクスが身体を張って作ってくれたチャンス。タオもレイナもみすみす逃すわけがなかった。

タオがゾロ目がけて槍による突きの連打を叩き込み、レイナは背後からゾロを斬りつける。見る見るうちにゾロは弱っていく。


「これでトドメだ!」


タオがトドメの一撃を放とうとした瞬間、剣士ヴィランが後ろから羽交い絞めにされた。レイナも同様に拘束される。


「詰めが甘かったようですなぁ」


エクスの魔法が解け、動きのキレが戻ったゾロが勝ち誇ったかのようなトーンで1歩ずつタオに近づいていく。だが彼は無抵抗のまま倒されるわけではなかった。

タオは後ろの剣士ヴィラン目がけて勢いよくエビ反りになって頭突きを食らわす。一瞬、力が緩んだ隙に振り払い、そのままゾロ目がけてヴィランを背負い投げの要領で投げ飛ばす。


「ぐお!」


予想外の攻撃にゾロは避ける事が出来ずに直撃を喰らってしまう。

その隙を逃さずにタオはヴィランごとゾロを突いた。ゾロは片膝をつく。


「き、今日の所はこの辺にしておきましょう」


逃げることを決めたゾロは跳びあがり闇夜に身を隠すつもりだった。が、それをレイナが許さない。

タオと同じ要領で羽交い絞めを脱したレイナがヴィランから黒いレイピアを奪い、ゾロ目がけてダーツの矢のように投げる。それはゾロの太ももに突き刺さり、彼はゆらりとよろめく。


「タオ! 行って!」

「これで終わりだ!」


その隙を逃さない。タオが槍にありったけの魔力を込め、渾身の力を込めた必殺の一突きを放つ。

ゾロは無言で崩れ落ち、倒れた。同時に剣士ヴィランも虚空へと消え、消滅した。


「正義は……無いのか……。悪を倒す……正義は……」


ゾロはうわごとのようにつぶやいている。


「正義感が暴走してカオステラーに付け込まれたわけね」

「コイツはどこまでも正しくあろうとした。だから悪になったってわけか。お嬢、頼む」


レイナはうなづく。


「混沌の渦に呑まれし語り部よ、

 我の言の葉によりてここに調律を開始せし……」


レイナが調律を始める。

ボロボロだったゾロの身体の傷が見る見るうちに癒えていく。


「終わったわ」


エクスとシェインも立ち上がる。


「エクス、よくやったな。お前がいなけりゃ全滅したかもしれない」

「タオが戦ってくれなきゃ勝てなかったよ」


二人はお互いの健闘をたたえる。その間にゾロは立ち上がる。


「皆様に余計な迷惑をおかけいたしましたね。……私が間違っていましたよ。この想区の外に関してはあなたたちにお任せします。お願いいたします。

 では私はこの辺でおさらばさせていただきます」


ゾロは闇夜へと消えていった。


「これでこの想区はもう大丈夫ね」

「今日はもう遅いから宿屋で休憩しようぜ。みんな疲れただろ」

「そうだね。今日はもう泊まろう」

「あのさあ、僕たちは……正しいよね?」


町へと変えることを決めた一行にエクスは問いかける


「何言ってんだエクス、これで良いに決まってんだろ? 余計なこと考えるなよなぁ」

「そうよ。想区の崩壊を止める事が悪い事なんて絶対ないわ。私たちは正しいのよ」

「う、うん。分かった」


仲間から浴びせられる声に余計なことを言うんじゃなかったと少しだけ後悔する。

月明かりが照らす中、一行は宿へと向かっていった。

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スーパーヒーロー ゾロ あがつま ゆい @agatuma-yui

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