第十五章 人物検証
第十五章「人物検証」1
「では、本多さんのことですね」
「俺様だ」
「じゃあ、まず…。本多さんのパーソナルデータをおさらいさせてください。生年月日は?」
「それはさすがに、いらんだろ? あと血液型とか星座とかも俺は答えないぞ」
「どうしてですか?」
「どうせくだらない相性だとか血液型診断とかに使うんだろう。そんな非科学的なものはもうまっぴらだよ。阿賀流のあの連中だけで充分にトンデモなんだから」
「えー。私との相性は知りたくないんですか?」
「な、なんでそんなにウキウキした顔してんの。世の中には知らないほうが幸せなこともたくさんあるんだよ」
「けち」
「あのなあ…」
「じゃあ、スリーサイズは…」
「なんだよ、男にスリーサイズって」
「それはもちろん、放送禁止の音が入るようなモノのサイズとか…」
「アホか。もう、真面目にいくぞ」
「はーい」
佳澄はニコニコしている。
真人は苦笑した。少し緊張がほぐれたかもしれない。相変わらずの佳澄節だ。
「では真面目な話。本多さんは、いま何歳ですか」
「ジャスト三十歳だよ。真緒と同じ。…君は、下になるのか?」
「そうです。私はいま二十八歳ですから。血がつながってない妹みたいですね。ウフ」
「黙れ」
「くすくす。じゃあ、本多さんがご自身で考えてみて、気になることを挙げてみてください」
「ふうむ…。色々あるけど…。たとえば記憶だな。俺の過去の記憶が消えているのは、あの儀式の失敗が原因だったってことだよな」
「そうですね。小さい頃に真緒ちゃんと紛れ込んだ儀式の影響で、本多さんのそれまでの記憶は失われてしまった…」
「それも不思議な話なんだよな。あの儀式が、兄様が言ってたように、人と人を統合して超人を生む儀式なんだとして。どうして、失敗したからといって、記憶がなくなるんだろう。それにさ、なんとなく残っている記憶もなくはない。吊り橋とかさ」
「本多さんと真緒ちゃんのためにお母さんが調べていたことの中に、認知症のことがありましたよ。記憶というのは、いくつかタイプがあるんだそうです。認知症の人でも、身体が覚えた記憶というんでしょうか、たとえば自転車の乗り方とか、泳ぎ方とか。そういう記憶は、なかなか失われないんだそうですよ」
「ふむ…。身体に染みついて無意識にやれるようなことか? 吊り橋の感覚なんかも、そういうものと結びついているから残っていたんだろうか」
「あの吊り橋を子どもの頃に頻繁に渡っていたとしたら、平衡感覚とかで、身体の記憶になっていても不思議はないかもしれませんね」
「失われた記憶と、失われることがない記憶か。しかし…人と人の統合なんて。もっと違う影響が出ていそうに思うんだけどな。本当に記憶だけなのか、影響しているのは? 青い目の超人連中は、あの儀式と関係があるのか?」
「兄様が言っていた儀式の超人と、あの青い瞳の超人とは、また違うものかもしれません」
「だとしたら、ますます分からないな」
「例の儀式のことは、棚上げですね。もう少しファクターが揃ってから、また別に考えたほうがよさそうです」
「ううむ。そうだな…」
「他に、本多さんご自身、いかがですか。これでスッキリしましたか?」
「いや、まだまだ。阿賀流に来るときのことを思い出すと、大きな疑惑がある」
「大きな疑惑?」
「そもそも阿賀流に来る直接のきっかけになったのはね、古本屋で『たまたま』手に取った本に白琴洞が紹介されてて、『たまたま』そこによこまちストアのレシートが栞で挟んであったからなんだ。そんな偶然があるはずはない。あ、そうだ! 思い出したぞ、その本に触ってたらしき男が先にいたんだ」
「その人が、本多さんが本を手に取るように仕向けたということですか?」
「バカげてるけど、そうとしか思えないな」
「…すると、阿賀流に来る前の本多さんは、何者かに行動を監視されていたということになりませんか? 白琴会でしょうか」
「そうなんだよな…。後で起きたことを考え合わせると、白琴会が、俺を阿賀流に向かわせるように仕向けたんじゃないかと」
「東京にも、白琴会の目があるということですか。それはデンジャラスですよね。今の私達はどうなんでしょう?」
「どうかな…。ここは、前に住んでた辺りとは全く違うし。いざとなると東京なんてけっこう潜伏出来るものだよ。俺がもし監視されていたんだとしたら、それはきっと美奈子姉ちゃんの失踪のときからなんじゃないだろうか。姉ちゃんの失踪だって、やっぱりあれは白琴会が絡んでいるんだと思うしな」
「でもそれだと、どうして白琴会はすぐに本多さんに手を出さずに今まで待っていたんでしょうね」
「泳がされていたってことになるよな。解せないな…」
真人が天井を見上げると、佳澄が続けた。
「オーケー、分からないことは考えても分かりません。いったんメモっておきます。では本多さん、他に本多さんご自身で気になっていることは、ありますか? もうないですか?」
「う、うーん。…あ」
「何かありますか?」
「いや、考え過ぎかな…」
「いいんですよ、おっしゃってください」
「うーん…。ただの気のせいなのかもしれないけど、記憶喪失のこととか、真緒が言ってた未来がどうこうってことを思い出したらね…」
「なんですか?」
「ときどき、スマホが震える錯覚がするんだよ。ここぞっていうときに。虫の知らせみたいな、さ」
「…? 昔からです?」
「いや。気になり出したのは、ちょうど阿賀流に来る頃から」
「気になりますね、それは。予知能力のようなことですか?」
「そんなはっきりしたものではないな。何かあるな、と思ったときにブルッとする、そんなレベルだよ。だから、ただの思い込みで、他にも錯覚しているときはあって、たまたま何かあるときだけ気になっているのかもしれない」
「どうなんでしょうね…。確かに、なんとなく記憶喪失のことと、予知能力と。無関係ではないようにも思えますが」
「まあ、これは考えても分からないことだな。疑問点ってことで、メモだけしておいてよ」
「はい、分かりました」
「まあ、俺自身のことは、今のところそんなもんか」
「そうですか。派生して他の人の話が出てきましたね。じゃあ、本多さんに近い人にいってみましょうか。本多さんに関係している人物の名前、線を引いて周りに書き出してみますよ」
「ああ」
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