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随分長い間、真人も佳澄も呆然としていたように思ったが、実際には数分も経っていなかったようだ。
広間の入り口、真人達が辿ってきたほうとは反対側が、騒がしくなった。
真人は顔を上げた。
険しい顔をしている佳澄の表情に行き当たった.
「白琴会の新手だと思います」
「あれだけ派手な悲鳴あげて落っこちてくれれば、そりゃあ他の奴にも聞こえるか」
おおかた、白琴会の増援はすぐ近くまで来ていたのだろう。そこに兄様―あるいは兄様だったもの―の悲鳴だ。
行動をすぐ起こさなければならない。焦りがつのる。
「真緒はどこに行ったんだ!? 逃げるにしたって、真緒が…」
「本多さん!」
佳澄が強い声で言う。
「しっかりしてください」
「しっかり? 俺はしっかりしてる。わけが分からないのは兄様と真緒だ。とにかく真緒を探さないと…」
佳澄は首を強く横に振った。
「それのどこがしっかりしてるんですか!」
「なんだよっ!?」
咎めるような佳澄の口調に、真人も苛立ちを隠さずに返した。
「真緒をつかまえて、何がどうなったのか聞き出す。真緒が…何かを仕掛けたに違いないんだ」
「それは今やることじゃないでしょうっ!?」
「はァ?」
「いま一番大事なことは、逃げることですよ?」
「んなこた分かってる」
「分かってません! 私だって混乱してますけど、でも一つだけ確かなことはあるんです」
「なんだよ、それは?」
「私が…真緒から受け止めた、真緒の気持です。本多さんだって、見たでしょう? 真緒の…顔を」
「…!」
言われて真人は、最後の真緒の表情を思い浮かべた。
あの表情の意味は、なんだったのだろうか。
「あれが…あの表情が…本多さんを陥れようとする顔でしたかっ!?」
言われるまでもなく、あの優しい眼を真人は見ていた。
そこには悪意はなく、真人を安心させる何かがあった。
むしろ、だからこそ知りたいと切望していた。
何か決定的なことが起きたのだ。
だが、今それを追究しようとすることが自分のエゴに過ぎないことも、分かっていた。
頭では理解していても、別の行動をしてしまうことがある。あるいはそうすることで現実から目を背けているのかもしれなかった。
「だから、今は逃げましょう? 黒澤さんに言われたとおりに。私達は、ここに来ちゃいけなかった。真緒は、そのために私達を逃がしてくれようとしたんですよ?」
真人は胃の底のほうから息を吐いた。
「……逃げよう。君が正しい」
「はい」
佳澄は静かにうなずいた。
うなずいたきり、言葉を続けなかった。
その意図は真人にもすぐ察知出来た。つまり、真人が言葉だけではなく本気で行動するのを待っているのだ。
真人は拳をぎゅっと握り、自分に気合を入れ直した。
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