6
ひととおり話終えて、真人は女子三人の表情を伺った。
寛子は最初から反応は変わらず、真人が過去を語るのを、コクコクうなずきながら聞いていた。
驚いた様子もなく、最初からなんら変わっていない。
佳澄も落ち着いた印象で、静かに話を聞いていた。ただし寛子と違い、ときどき質問のため口を挟んだ。
その様子は、昨日、案内所でしょうもないやりとりをしたミス渋柿とはなかなかうまく重ならない。
それに佳澄は、四人での会話が始まってからずっとそうだが、寛子の反応を気にしている素振りがずっと伺えた。
どうも、何か含むところがあるように思えてならない。
そして、真緒だ。
真緒は佳澄と反対で、案内所にいたときのてきぱきとした様子が薄れ、しじゅうお人形よろしくにこやか静かに座っているばかりだ。
話の合間にときどき微笑みを真人に見せるが、あまり口を開くまでのことはない。
強烈な個性の二人を前にして、そんな真緒の雰囲気は、真人の心を慰めた。
しかし、佳澄と役割交替でもしたようなその言動は、どうも引っかかった。
「これで、ひととおり俺の話は終わったわけですが…」
さてこれから何が聞き出せるかと、真人はぐっと両の拳を組み合わせて身構えた。
ところが、間の抜けた声が場の緊張を見事に崩した。
「おなか、空いた…」
ミス渋柿の佳澄が、出し抜けにそんなことを呟いて、こたつに腕を投げ出した。
「脳を使うとお腹減ると思うのよね。真緒ちゃんどお?」
「そう言えば少し空いたかも?」
真人は、折角これからというタイミングで、空腹などほぼ感じていなかったのだが、押しきるわけにもいかない。困惑して寛子を見た。
「そうねえ。ちょっと早いけど夜ご飯、支度する? マサ君、食べていくでしょ?」
「え、あ、ああ……はあ」
この流れは断ることが出来るはずもなく、真人は言われるがままうなずく。
「続きは、お夕食でもとりながら、ね」
寛子はそう言って立ち上がった。パンパンと服の前をはたく。
「あんた達は、続けててもいいよ。思い出話も色々あるだろう」
「でも…」
真緒が躊躇したが、佳澄がそんな真緒を諭した。
「私もお母さん手伝ってくるから。真緒ちゃん、不愉快だと思うけど、本多さんの相手してあげて」
本人を前にして不愉快はないだろう。佳澄の失礼な言動復活だ。
寛子と佳澄が奥の台所に行ってしまうと、真人は真緒と二人、コタツにインした状態で取り残された。
これはなかなかに困った。
どうも真緒には要らない誤解を与え続けているような気がする。
いっぽうで、四人のコタツ会議になってからというもの、案内所にいたときと少し様子が変わって、いやに静かな真緒の印象も気にかかっていた。
とにかくこういうときは沈黙の空気をまずどうにかしなくてはなるまい。
真人はポリポリ頬をかき、真緒に視線を合わせた。
まっすぐこちらを見ている真緒と目がぶつかる。
ミス渋柿親子のような驚異のインパクトフェイスも見るのがつらいものがあるが、真緒の整った顔立ちにはそれとは違う力がある。
真人はその魅力をいまさら実感しながら、口を開いた。
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