第五章 白琴洞

第五章「白琴洞」1

よこまちストアを出て車に戻った真人は、行動の前に、今買ったばかりのパンフレットを引っ張り出した。予習は忘れずに。


観光地図を見て、現在地と、各所の位置関係を確かめる。

もちろん、事前に地図アプリで頭に入れていたとはいえ、実際に見てきた情報を合わせると、二次元と三次元の情報が組み合わされた、より確かな地図が脳内に染み込んでくる。


阿賀流の中心地、つまり観光案内所や仙境開発がある辺りは盆地状だが、そこから白琴洞まで数キロは県道で上神川を遡ることができる。


その途中に、下流から順に、昨晩の宿とオートキャンプ場が点在している。


そして白琴洞の手前にあるのが蛇窪の集落とよこまちストアということになる。


こうしてみればみるほど、距離感が都市圏とは全く異なることにあらためて気付かされる。


寛子や真緒の反応からして、どうやら真人が阿賀流出身であることは疑いようがない。

そして蛇窪近辺に、小学入学の前後頃まで住んでいた。


両親は事故か何かでその頃に亡くなり、美奈子に引き取られて阿賀流を去った。

両親のことは美奈子にとっていい思い出ではなく、真人は何も知らないに等しい。


だが寛子は美奈子が真人に伝えなかったことを教えてくれそうだ。

それは美奈子の失踪や、古本の栞、宿屋の襲撃ともすべてつながっているのだろうか。


思考はさらに深まる。


白琴会という組織はどう関係しているのか。


寛子達も白琴会と無関係ではないのだとして、それでも味方と考えるのはどうか。


そもそも白琴会が本当に襲撃者であって敵であると判断してよいのだろうか。

白琴会を疑っている根拠は、あの怪電話に始まる。そして駐在の言葉。


道着の色はどうにでもなる。そもそもかの駐在の言動自体が疑わしい。


たとえば、擬装という可能性も考えられなくはない。疑いの目を向けさせる、ということだ。


もちろんそうだとしても、そうすることが誰にとってどういう意味があるのか、までは分からない。


真人はため息をついた。

分からないことはともかく、先に進むしかない。


まず白琴洞に入ってみよう。

取材の観点もある。おそらく何回か潜るだろうが、第一回だ。

行きがてら、かつての本多家を見られるだろう。


白琴洞の後で、よこまちストアに再び赴き、さらに詳しい話を訊く。


残り時間によっては、今日のうちに仙境開発も見学してみたい。


今日の残りプランはだいたいそんなところか。

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