カイリ、困惑する


 ヨウが一人で出かけてから半日。陽もまだ昇り切らなかった早朝に一人でいいと言って姿を消したヨウが、夕刻になって戻ってきた。

 また今回も、しっかり気を失って。

「ああ、ヨウ……」

「これで何回目だ。カナタが目を回すのは」

 トトに連れて帰られたヨウの姿にカイリとフィンネルは頭を抱え、

「ヨウにーちゃん? おーい?」

 目を回しているヨウにトトが呼びかける。しかしヨウは、「うぅ……」と唸るばかりで目を覚まそうとしない。

「ははっ、情けねえ。オイ誰かこいつさっさと叩き出してやれよ。いまにくたばっちまうぞ?」

 周りにいた誰かがそう声を上げ、取り囲んでいる連中がどっと笑った。調子づいて一人で村の外を歩き回っていた部外者が、案の定無様なナリで帰ってきた。それがおかしくてたまらないというように。

「むぅ……みんな! そういう風に言うのはやめてって昨日も――」

「やめないか! いい大人が子供を嗤うなんてみっともない!」

 そのとき、カイリを遮って声を上げたのは意外にもフィンネルだった。

 昨日までは彼らと一緒になってヨウを嗤っていた張本人が、ヨウの側に踊り出て声を荒げる。

「僕たちは誇り高きビニティの一族だろう! それを恥ずかしくないのか!」

「な、なんだよ急に……おめえだって昨日は一緒になって……」

「そ、それはそれだ! とにかく止めるんだ皆!」

「……?」

 カイリは意味が分からなかった。昨日はあれだけ声高にヨウのことを馬鹿にしていたくせに、いったいどういう風の吹き回しなのか。

「……うるさいな。なんだよこれ」

「あ、起きた」

「おー、おっはよーヨウにーちゃん」

 そんな騒ぎの中、ヨウがむくりと体を起こす。耳に入った水をトントンと叩いて出し、重々しい動きで立ち上がる。

「カナタ!? だ、大丈夫なのか!?」

「……? ああ大丈夫だ」

 立ち上がったヨウに駆け寄ってきたフィンネルに、ヨウは笑って応える。

「今日は誰の仕事にも迷惑はかけてない。心配するなよ」

「え、あ!? い、いやそういうこ――」

「はいはい、どうせフィンネルさん酷いこと言うんでしょ? 引っ込んでて」

「ちょっ!?」

 何かを言おうとしていたフィンネルを押しのけ、カイリはヨウの前に立つ。

「大丈夫? さっきもまた溺れてたみたいだけど……」

「大丈夫だよ。俺も結構気絶慣れしてきてるから」

「……気絶慣れ?」

「大丈夫だカイリ。俺も自分で言ってて違和感が凄いから」

 よく分からないことを口にしながらヨウは首をポキポキと鳴らす。周りではまだヒソヒソと村人達がヨウの陰口を叩いているが、そちらには別段反応も見せない。

「……やっぱ、今のままじゃやれることも少ないな」

「へ?」

「カイリ、ちょっと頼みがあるんだけど、いいか?」

 ヨウは、そう言ってカイリの目を見る。

「明日用意してもらいたいものがある。ナイフ……いや何でもいい、そこそこ頑丈で取り回しやすい大きさの刃物はあるか?」

「……? う、うん。動物の骨から削りだしたのならあるけど……」

 細工品の細かい部分や肉の解体などに使う道具としてそういうものがある。ただ、所詮骨なので強度には難がある。それに大きな木などはビークに囓り倒してもらった方が早いし、ビニティには頑丈な歯が自前であるので普段のダム造りなどの作業ではあまり使わない代物だ。

「よし、ならそれを明日は貸してくれ。大きさは二〇センチ……いや、刃先から柄までで手首から肘ぐらいまでのやつがあれば一番だ」

 自分の手首と肘をトントンと叩くヨウにカイリはコクンと頷く。

「ありがとうな。あ、それとゾボロさんに会ったら伝えてくれ。二日後の買い出しについてちょっと話があるってさ」

「わ、わかった……伝えとくね」

 そう言うとヨウは満足げに頷く。そして言いたいことも言い終わったのか、くわあっと大きな欠伸をした。

「ふう、朝早かったから眠い……今日はもう休む」

「あ、晩ご飯は?」

「いらない。ウド……じゃなかった、カチュアを腹一杯食ったから」

 そう言ってヨウは自分の寝床に戻っていく。

 昨日までも不思議な部分の多い相手だったが、今日は特に――、

「……何考えてるんだろ」

 特に、分からなかった。



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