6.徘徊する人体模型と音楽室のピアノの怪

1.



 十三階段の件に一応の決着をつけ(と言っていいのだろうかあれは)、僕と布津ふつは校舎の二階へと進んだ。

 放課後の廊下であった。

 並ぶガラス窓から屋外へ目を遣ると、空には黒雲が立ち込めていた。新学期にはあまり相応しくない、重くどんよりとした空気。時刻は午後四時を回っていた。日は既に大きくかげりを見せていた。それに追い打ちをかけるかのように、濃い雲のカーテンが夕陽を遮断した。


「……おや。さっきまでは晴れていたのにね」

「そうだな。これはひと雨来そうだ……とか言っていたら、降り出したみたいだな」


 布津の言葉の通り、窓の外では雨が降り始めていた。雨足は瞬く間に強まり、すぐバケツをひっくり返したような様相を呈した。風景が灰色にけぶり、雨粒が窓ガラスをざかざかと打つ。続いて雷鳴まで加わり、いよいよ春の嵐である。


 ――天気予報では何と言っていただろうか。


 例によって今朝も、妹に急き立てられて慌ただしく部屋を出てきてしまった。スマホのニュースはチェックしていた気もするが、その記憶は定かではない。


「あはははっ! これはある意味で怪談にはうってつけの雰囲気だね!」

「その発言で一気に台無しだけどな」

「いやあ、これで停電にでもなればシチュエーションは完璧と――」


 ――――と。

 言いかけたところでいっそう強い雷光と衝撃が走り、校内の電気が一斉に落ちた。




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